赤色巨星から放たれる高温で巨大なキャノンボール
【2016年10月11日 HubbleSite】
ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測したのは、地球から約1200光年の距離にある赤色巨星「うみへび座V星」だ。一生の終期の段階にある年老いた星だが、その近くから、高速で放出される複数の高温プラズマの塊が検出された。そのメカニズムははっきりしていないが、うみへび座V星の未発見の伴星によるものではないかと考えられている。
理論によれば、伴星はうみへび座V星の周りを8.5年周期の楕円軌道で回っており、公転中に大きく膨らんだうみへび座V星の外層部分に入り込む。その際に奪いとった主星の物質から、伴星の周囲を取り囲む円盤が形成され、これが時速約80万kmという高速プラズマ塊の発射台となるという。
NASAジェット推進研究所のRaghvendra Sahaiさんたちの研究チームはHSTを使って、うみへび座V星を2002年から2004年と2011年から2013年に観測し、プラズマ塊の温度が摂氏9400度もの高温であることや、複数の塊の動きなどを明らかにした。放出されたばかりのもの、それより少し離れた場所へ移動したもの、さらにもっと遠く離れた所にある塊の存在が示されており、一番遠いものはうみへび座V星から約600億kmも離れている。
また、塊は移動につれて拡張し温度も下がるため、可視光線での観測はできなくなるが、2004年の電波観測では、400年前に放出されたと思われる、綿毛のようなこぶ状の構造も見つかっている。
面白いことに、巨大なプラズマ塊は8.5年ごとに同じ方向へ放出されているわけではないようだ。伴星の周りの降着円盤がふらつくことで、放出方向があちこちに変化すると考えられている。
このような星系は、死にゆく星の周囲に拡がって様々な形を見せて輝く惑星状星雲の原型かもしれない。「うみへび座V星での物質流出は知られていましたが、そのプロセスを実際に検出できたのは初めてのことです。一生の終わりを迎えつつある星で形成されるプラズマの塊は、惑星状星雲を作る助けになるのではないかと考えています。わたしたちは、赤色巨星が美しく輝く惑星状星雲へと移行するプロセスを確認したいのですが、その劇的変化は、だいたい200年から1000年の間、天文学的に言えばほんの一瞬で起こる出来事なのです」(Sahaiさん)。
〈参照〉
- HubbleSite: Hubble Detects Giant 'Cannonballs' Shooting from Star
- The Astrophysical Journal: HIGH-SPEED BULLET EJECTIONS DURING THE AGB-TO-PLANETARY NEBULA TRANSITION: HST OBSERVATIONS OF THE CARBON STAR, V HYDRAE 論文
〈関連リンク〉
- HubbleSite: http://hubblesite.org/
関連記事
- 2023/08/07 JWSTがとらえたリング星雲
- 2021/09/21 星から惑星状星雲へ、進化の最終段階に入った「宇宙の噴水」
- 2021/02/12 ベテルギウスの爆発は10万年以上先になりそう
- 2020/10/14 銀河の歴史を語る、周縁部の惑星状星雲たち
- 2020/10/12 過剰なリチウムは赤色巨星の進化段階を示す
- 2020/09/25 丸い星が丸くない惑星状星雲を作る理由
- 2020/09/17 スーパーチャンドラセカール超新星は「星の中」で起こる爆発か
- 2020/03/10 ほんの60年前にジェットを噴出して変身し始めた老齢の星
- 2020/02/10 連星系で作られた美しいガスの広がり
- 2018/10/29 惑星状星雲の中心に3時間周期の連星
- 2018/08/21 裏返しの惑星状星雲
- 2018/05/23 あり星雲からの珍しいレーザー放射
- 2018/05/14 50億年後、太陽が死ぬと何が起こるのか
- 2018/03/12 赤色巨星からの風で生き返った中性子星
- 2017/12/26 赤色巨星の巨大粒状斑を直接撮影
- 2017/11/30 星の進化と共に大きく膨らんだホットジュピター
- 2017/10/03 土星状星雲の不思議な構造
- 2017/06/12 宇宙で最も低温の天体、原始惑星状星雲「ブーメラン星雲」
- 2017/06/09 共生する不安定な星、みずがめ座R星
- 2017/03/07 渦巻き模様が伝える星の最期のメッセージ