赤色巨星からの風で生き返った中性子星
【2018年3月12日 ヨーロッパ宇宙機関】
2017年8月13日、ヨーロッパ宇宙機関の天文衛星「インテグラル」が、天の川銀河中心部の方向(へびつかい座の領域内)でX線の閃光を検出した。
このX線の発生源を突き止めるため、その後数週間にわたっていくつもの天体望遠鏡や人工衛星によって追観測が行われた。その結果、この現象は中性子星と赤色巨星からなる連星で起こったもので、強い磁場を持ちゆっくりと自転する中性子星に、隣の赤色巨星から物質が流れ込み始めたことによってX線が発生したらしいことが明らかになった。
質量が太陽の1〜8倍の星は、一生の終わりが近づくと赤色巨星へと進化する。すると、星の外層は半径数百万kmに膨張し、塵やガスが秒速数百kmという比較的低速で中心星から放出される。
一方、質量が太陽の25倍~30倍もある大質量星は、核融合の燃料を急速に使い果たして超新星爆発を起こし、その爆発後に強い磁場を持つ中性子星を残すことがある。中性子星は直径10kmほどの大きさに太陽1.5個分ほどの質量が詰め込まれており、宇宙で最も密度の高い天体の一つだ。
2つの恒星が互いに回り合う「連星」はごくありふれた存在だが、近年になって、中性子星と赤色巨星が相互作用する新たなタイプの連星系が見つかっている。このような連星は「共生X線連星」と呼ばれ、これまでに10組ほどしか発見されていない。
「インテグラルは、共生X線連星という珍しい連星系が活動を始める貴重な一瞬をとらえました。十分に濃くて低速の風が赤色巨星から放出されることで、『星の死骸』である中性子星に物質が供給され、高エネルギーのX線を放射するようになったのです」(スイス・ジュネーヴ大学 Enrico Bozzoさん)。
ヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡「XMMニュートン」とNASAのX線天文衛星「NuSTAR」による観測から、この中性子星は約2時間周期で自転していることが示された。中性子星は毎秒数回もの自転速度に達することもあるが、それに比べて今回の中性子星の自転は非常に遅い。また、共生X線連星の中性子星としては初となる磁場の観測も行われ、驚くほど磁場が強いことも明らかになった。
中性子星の磁場は時間とともに衰えると考えられているため、磁場が強いということはその中性子星が若いことを示している。一方の赤色巨星ははるかに年老いていて、この2つの天体は、ともに成長してきた連星としては奇妙なカップルといえる。
「不可解な連星系です。この中性子星の磁場は時間が経ってもあまり衰えない性質を持っているのかもしれませんし、あるいは実際に、この中性子星が赤色巨星より後に生まれたのかもしれません。もしそうなら、この中性子星は大質量星の超新星爆発という典型的なプロセスで作られたものではなくて、もともと白色矮星だったものに隣の赤色巨星から長期間にわたって物質が降り積もることで重力崩壊して中性子星になった可能性も考えられます」(Bozzoさん)。
若い中性子星と年老いた赤色巨星からなる連星系では、赤色巨星からの風が中性子星に降り積もるようになり、これによって中性子星の自転速度が遅くなってX線の放射が起こると考えられる。
「インテグラルによる過去15年間の観測では、この天体からのX線は検出されていませんでした。つまり私たちは今回、この天体でX線の放射が初めて始まった瞬間を目撃したと考えています。このX線放射は、たまたま一時的に赤色巨星からの物質放出が長く続いて発生しただけかもしれません。これまでのところ目立った変化は起こっていませんが、赤色巨星からの風が止まった場合にどんな振る舞いが見られるか、今後も観測を続ける予定です」(ヨーロッパ宇宙機関インテグラル・プロジェクトサイエンティスト Erik Kuulkersさん)。
〈参照〉
- ヨーロッパ宇宙機関:Donor Star Breathes Life into Zombie Companion
- Astronomy & Astrophysics:IGR J17329-2731: the birth of a symbiotic X-ray binary 論文
〈関連リンク〉
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