天の川を撃ち抜く超音速の弾丸、正体は浮遊ブラックホールの可能性
【2017年1月18日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所/アタカマサブミリ波望遠鏡実験】
慶應義塾大学の山田真也さんたちの研究チームは、1つの超新星爆発が周囲の星間ガスに与える運動エネルギーを精密に直接測定する目的で、わし座の方向約1万光年彼方の超新星残骸「W44」を観測していた。
その過程で、W44に付随する分子雲中に、超新星残骸の膨張運動から大きくかけ離れたコンパクトな高速度成分が見つかった。「Bullet(弾丸)」と名付けられたこの直径約2光年の高速度成分は、星間空間での音速を2桁以上も上回る120km/sもの異常な速度幅を持ち、天の川銀河の回転方向とは完全に逆方向に運動していた。
研究チームはBulletの起源を探る目的で、国立天文台アタカマサブミリ波望遠鏡実験(ASTE)10m望遠鏡と野辺山45m電波望遠鏡を用いて、一酸化炭素分子(CO)とホルミルイオン(HCO+)のスペクトル線による詳細なイメージング観測を行った。その結果、Bulletでは圧縮過程よりも加熱過程の方がより効率的に働いている事がわかった。これは同領域で検出されるW44超新星残骸に圧縮された分子ガスとは決定的に異なっている。
さらにBulletの詳細な空間・速度構造が明らかになり、大きさや質量、運動エネルギーが測定され、Bulletが形成から5000~8000年ほど経過していることもわかった。
このBulletの性質を説明するモデルが2つ考えられているが、いずれの場合でもBulletを生み出す駆動源としてブラックホールが本質的な役割を果たす。つまり、現状で想定されるBulletの駆動源は、伴星を持たない単独のブラックホールということになる。
今回の研究で、自らは明るく輝いていない「野良ブラックホール」の存在を確認する一つの手法が示された。天の川銀河には同種の天体が1億個から10億個も浮遊していると考えられているが、そうした天体の研究の端緒を開く成果となった。
〈参照〉
- 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所: 天の川を撃ち抜く超音速の『弾丸』を発見〜正体は「野良ブラックホール」か?〜
- アタカマサブミリ波望遠鏡実験: 天の川を撃ち抜く超音速の『弾丸』を発見〜正体は「野良ブラックホール」か?〜
- The Astrophysical Journal Letters: Kinematics of Ultra-High-Velocity Gas in the Expanding Molecular Shell adjacent to the W44 Supernova Remnant 論文
〈関連リンク〉
- アタカマサブミリ波望遠鏡実験(ASTE): http://alma.mtk.nao.ac.jp/aste/
- 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所: http://www.nro.nao.ac.jp/
関連記事
- 2024/09/30 ブラックホールの自転による超高光度円盤の歳差運動を世界で初めて実証
- 2024/09/05 ブラックホール周囲の降着円盤の乱流構造を超高解像度シミュレーションで解明
- 2024/08/02 X線偏光でとらえたブラックホール近傍の秒スケール変動
- 2024/04/22 最も重い恒星質量ブラックホールを発見
- 2023/08/04 合体前のブラックホールは決まった質量を持つ?
- 2022/12/06 M87ブラックホールのジェットがゆるやかに加速する仕組み
- 2022/12/01 ブラックホールを取り巻くコロナの分布、X線偏光で明らかに
- 2022/11/10 「一番近いブラックホール」の記録更新
- 2022/10/24 観測史上最強規模のガンマ線バーストが発生
- 2022/07/25 「ブラックホール警察」、隠れたブラックホールを発見
- 2022/06/15 伴星を持たない単独ブラックホール候補天体、初発見
- 2022/05/16 【レポート】いて座A*ブラックホールシャドウ記者会見
- 2022/05/13 天の川銀河の中心ブラックホールを撮影成功
- 2022/03/14 X線と電波が交互に強まるブラックホールの「心電図」
- 2022/03/09 「一番近いブラックホール」の存在、否定される
- 2021/12/10 X線偏光観測衛星「IXPE」、打ち上げ成功
- 2021/12/02 ブラックホールから生じる「ねじれた」ガンマ線
- 2021/08/04 ブラックホールの背後から届いたX線の「こだま」
- 2021/07/13 星団から星を放り出すブラックホール
- 2021/07/05 中性子星とブラックホールの合体に伴う重力波を初観測