ブラックホールの背後から届いたX線の「こだま」

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銀河中心の超大質量ブラックホールを取り巻く降着円盤のうち、ブラックホールの背後にある部分で反射したX線が、重力レンズで曲げられてこちらへ届いた現象が初めて検出された。

【2021年8月4日 ヨーロッパ宇宙機関

強い重力を持つブラックホールの中からは光でさえも脱出できないが、重力レンズ効果で光が曲げられることによって、角度次第ではブラックホールの向こう側からの光が観測できる。米・スタンフォード大学のDan Wilkinsさんたちの研究チームは、ブラックホールの周辺で発生したX線の一部が「こだま」のように遅れて届くのをとらえ、それがブラックホールの背後から重力レンズによって曲げられてきたものだと特定した。

研究チームはヨーロッパ宇宙機関のX線宇宙望遠鏡「XMMニュートン」とNASAのX線天文衛星「NuSTAR」を用いて、うお座の方向にある約8億光年離れた渦巻銀河I Zwicky 1の中心に存在する太陽質量の1000万倍ほどの超大質量ブラックホールを観測し、ブラックホールの強いX線源であるコロナを調べていた。

ブラックホールに引き寄せられたガスは周囲に降着円盤を形成し、摩擦によって回転エネルギーを失うことで徐々に中心へと落下する。一方で摩擦は降着円盤を数百万度まで加熱させるとともに、磁場も生み出す。ブラックホールの回転に伴い、その上方では磁力線もねじれていき、ある時点で磁力線をつなぎかえることでねじれを解消しようとする作用が働く。このときに莫大なエネルギーが解放されるため、ガスが超高温に加熱されてX線を放つのだ。

I Zwicky 1のコロナからのX線は極めて明るく、降着円盤の表面でも反射している。その一部は、最初に発せられたX線よりも遅れて宇宙望遠鏡たちのもとへ届いた。研究チームの計算によれば、超大質量ブラックホールの背後の降着円盤に反射したX線が重力レンズ効果によって曲げられてこちらに向かったと考えれば、この時間差が説明できるという。

ブラックホールの背後から光のエコーが届く様子
ブラックホールの背後から光のエコーが届く様子。(中央)ブラックホールとその周囲のイラスト。矢印は上から順に、2時間半も継続した非常に明るいX線フレア、ブラックホールの上方約6000万kmでX線を生成するブラックホールコロナ、光のエコー、ブラックホール(直径が約3000万m、質量が太陽の約1000万倍)。(右側)数字順に上から、(1)高温の渦巻く降着円盤からブラックホールへ物質が落ち込む、(2)ブラックホールコロナによってX線フレアが形成される、(3)X線が円盤で反射する、(4)ブラックホールの背後からのX線が重力レンズ効果で曲げられ、遅れて届く(提供:ヨーロッパ宇宙機関(ESA))

ある天体の増光が周囲で反射するなどして、こだまのように遅れて観測される現象は「光のエコー」と呼ばれることもある。今回のような場合、降着円盤の様々な位置で反射したX線は、その経路によって波長が微妙に変化する。研究チームでは、X線エコーの時間差や波長の変化をもとに、超大質量ブラックホール周辺の3次元マップを作りたいとしている。

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