銀河の「薄いガス」と「濃いガス」の同時観測に初成功

銀河全体に広く分布する「薄いガス」と、新たに誕生する星のもととなる「濃いガス」が世界で初めて同時に観測された。それぞれのガスが銀河のどこにどれだけ分布しているかという情報は、新たに誕生する星の数がどのように決定されるのかを解明するうえで重要な手がかりとなる。

【2017年3月6日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所

一般的な銀河は主に、星、その材料となるガス、大きさが1μm以下の塵、という3つの成分からできている。銀河でどのように星が生まれ、物質が循環し、長い時間をかけ進化していくかを解き明かすためには、星・ガス・塵の3成分がどこに、どれだけ存在しているかを知ることが不可欠だ。

このうち、星については可視光線や近赤外線の観測画像、塵については遠赤外線の観測画像が、数多くの銀河で得られている。しかし、ガスに対応する電波の観測画像は数十個の銀河にとどまっており、銀河内部のガスに関する情報は乏しい状態だ。とくに、銀河全体にわたって広がる「薄い(密度の低い)ガス」から、新たに誕生する星の直接的なもととなる「濃い(密度の高い)ガス」の塊を作る「高密度ガス形成」が、銀河のどのような場所でどれくらいの規模で起こっているのかということが、まだあまりわかっていない。

大阪府立大学の村岡和幸さんたちの研究チームは、野辺山45m電波望遠鏡に搭載された受信機「FOREST」を用いて、地球から2700万光年離れたしし座の銀河NGC 2903を観測した。FORESTは薄いガスと濃いガスを高感度で同時に観測でき、銀河の高精細なガス画像を効率よく得られる。そして、わずか14時間(従来の7分の1程度の時間)の観測で、NGC 2903全体の薄いガスと濃いガスの分布を描き出すことに成功した。

NGC 2903
NGC 2903。(左)赤外線天文衛星「スピッツァー」が撮影した波長8μmでの赤外線画像、(中央)45m電波望遠鏡とFOREST受信機で観測した薄いガスの分布、(右)濃いガスの分布(提供:国立天文台野辺山)

銀河の全体的な構造を示した赤外線画像と比較すると、薄いガスが銀河全体にわたって広がっていること、濃いガスは中心部や棒構造、渦巻腕など、銀河の中でもごく限られた場所に集中していることがわかる。こうしたガスの分布の情報をもとに、ガスの濃さ(密度)を推定したところ、銀河の中心部で最も密度が高く、次いで渦巻腕が高いこと、棒構造で最も低くなっていることがわかった。

さらに、ガスの濃さを、可視光線と赤外線の明るさを元にして計算した「星の生まれやすさ」と比較したところ、ガスが濃い場所ほど星が生まれやすいということがわかった。銀河の中で星が生まれやすい場所を見つけ出すためには、ガスの濃さを調べることがきわめて重要である、ということを示す結果だ。

本研究では、銀河の中心部だけでなく棒構造や渦巻腕など銀河円盤の一般的な構造に対してガスの濃さを推定でき、同じ銀河中の異なる場所で比べてもガスの濃さが星の生まれやすさと深く関わっていることが初めて明らかにされた。研究チームでは他の銀河のガス画像も順次得ており、今回の成果が他の銀河でも当てはまるかどうかの確認などの研究を進めていく。