【レポート】「重力波天体が放つ光を初観測」記者会見

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10月17日に東京大学で開催された記者会見「重力波天体が放つ光を初観測〜日本の望遠鏡群が捉えた重元素誕生の現場〜」の様子を、星ナビ連載「天文台マダムがゆく」著者の梅本真由美さんがレポート。

【2017年10月20日 星ナビ編集部

《人類初のマルチメッセンジャー天文学の成果》

レポート:梅本真由美さん

10月17日(火)、『重力波天体が放つ光を初観測〜日本の望遠鏡群が捉えた重元素誕生の現場〜』と題する記者会見が東京大学本郷キャンパス小柴ホールで開かれました。会見では、国立天文台、東京大学、広島大学などの研究者が参加する日本の重力波追跡観測チームJ-GEM(Japanese collaboration of Gravitational wave Electro-Magnetic follow-up)が、今年8月17日にアメリカの重力波観測装置「Advanced LIGO」とヨーロッパの「Advanced Virgo」でとらえられた重力波GW170817の電磁波による追跡観測に成功したことが発表されました。

会見の様子
会見の様子

GW170817は初の連星中性子星からの重力波であることや初の電磁波による重力波源の観測に成功したことなど、多くの発見をもたらした現象でした。そのなかでも記者発表ではとくに、追跡観測によって人類史上初めての「マルチメッセンジャー天文学」が成功した点に重きが置かれ、それによって「キロノバ」と呼ばれる現象を初めて観測し、中性子星の合体によって重元素(レアアース、金、ウランなど)ができるという理論が証明され、宇宙の重元素の起源に迫る大きな一歩が踏み出された、という科学的成果が強調されていました。

キロノバは、中性子星合体によるrプロセスによって作られた元素が放射性崩壊を起こし、そのエネルギーが電磁波となって放射される現象です。発表者の一人である国立天文台の田中雅臣さんたちの研究チームは2013年から、国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイ」を使ったシミュレーションによって中性子星合体から放射される電磁波のパターンを予測し、金や白金(プラチナ)などの重元素が中性子星の合体の過程でできたとする理論の研究を重ねてきました。

今回観測された光の減衰の変化の値が予測した値と一致していたことにより、中性子星の合体によって金などができるという理論の正しさが証明され、宇宙の重元素の起源に迫る大きな一歩が踏み出されたのです。研究者たちは今回の現象について「宇宙の金鉱を掘り当てた」と言っているそうです。

内海洋輔さんと田中雅臣さん
「連日の観測で天体の明るさの急激な変化がとらえられるのを見て、とてもわくわくしました」と語る、J-GEMに参加する広島大学の内海洋輔さん(左)と、「観測が予想どおりだったので、ホッとしたというのが正直な気持ち」と語る田中さん(右)

研究成果には、重力波、可視光線や赤外線、ガンマ線の観測、星が様々な元素を生み出す過程の理論的研究など、多くの分野が横断的にかかわっています。人類史上初のマルチメッセンジャー観測の成功は、世界中の天文学者たちの協力による大きな成果です。今後ここに、現在建設中の日本の大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」が加わることで、より精度の高い観測が行われるようになると期待されます。

J-GEMの代表である国立天文台ハワイ観測所長の吉田道利さんは「今後、詳細な研究を進めることによって、いまだに謎の多い中性子星やrプロセスについて多くの知見が得られるでしょう。重力波観測と電磁波観測が協力したマルチメッセンジャー観測を進めることで、宇宙の重元素の起源に迫りたい」と今後の期待を語ってくださいました。

田中雅臣さんに質問:

●分光観測はできたのか。実際に重金属のスペクトルを見ることはできないのか。
すでに分光観測がなされている。しかし、あまりにもドップラー効果が大きすぎるため、金やプラチナのスペクトルを検出することはできなかった。
●ガンマ線、光に遅れて電波が届くはずだが、電波望遠鏡による追跡観測の成果は?
電波は遅いのでゆっくり観測する。僕ら(光赤外)はもう追跡観測に関しては、やることはない。これからは電波の出番で、成果はこれから。今後、1年くらいは世界中の電波望遠鏡が一斉に空の一角、宇宙の一か所に望遠鏡を向けて観測し、成果を競うことになるだろう。

内海さんと田中さん
テレビカメラに囲まれる内海さん(奥)と田中さん(手前)。報道陣の注目度の高さからも今回の成果の大きさがうかがえる

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