重力波観測から導かれた中性子星の半径
【2017年12月8日 ハイデルベルク理論研究所】
非常に重い星が一生を終えるとその中心核は自らの重力で収縮し、超新星爆発を引き起こす。星の外層の物質が周囲に放出され、爆発の後に残されるのが、超高密度の天体、中性子星だ。中性子星の質量は太陽より少し重い程度だが、半径はわずか数十kmしかなく、その内部は非常に狭い体積に大きな質量が詰め込まれた極限的な状態にある。
研究者たちは中性子星の内部の状態を数十年にわたって調べており、とくにその半径を正確に決めるという問題に関心を持ってきた。半径がどのような値になるかは高密度物質の未知の性質によって変わってくるためだ。しかし、中性子星の内部構造はいまだ完全には理解されておらず、そのサイズや構造については天体物理学だけでなく原子核物理学や素粒子物理学の分野でも強い関心が持たれている。
今年8月17日、重力波検出器LIGOとVirgoによって、2つの中性子星の合体で生じた重力波(GW170817)が初めて観測された。中性子星同士が衝突すると2つの星は互いの周りを公転して最終的には合体し、合体前の質量の合計にほぼ等しい1つの星になる。この現象で重力波が放出されるが、その波形は合体した星の質量を反映した特徴を持っているため、重力波の波形の観測から合体前の天体の質量を正確に求めることができる。これはいわば、水面に石を投げたときに生じる波紋のようなものだ。石が重いほど波が高くなるので、その高さから石の重さを求めることができる。
こうして重力波の波形から、合体前の中性子星連星の質量が合計で太陽の2.74倍と求められた。この観測結果に基づき、独・ハイデルベルク理論研究所(HITS)のAndreas Bausweinさんたちの研究チームはこれまでで最も精密な中性子星の半径の下限値を求めた。
Bausweinさんたちは中性子星の内部構造として提案されている様々なモデルや内部物質の状態方程式を用いて、合体後の星がすぐに重力収縮で潰れてブラックホールになる場合と潰れずにしばらく安定して存在する場合の2通りのシナリオについてシミュレーションを行い、計算結果がGW170817のデータと合うかどうかを調べた。
合体後の星がすぐに重力収縮を起こす場合、光はあまり強く放出されないが、実際のGW170817の観測では明るい残光が様々な望遠鏡でとらえられている。つまり、重力収縮に至るようなモデルや条件はGW170817の観測結果と矛盾するということだ。観測データをよく再現するような中性子星のモデルを調べた結果、中性子星の半径の下限が10.7kmと求められた。
今回の推定値や計算結果から、高密度物質の性質を詳しく理解できるようになるだろう。今回の下限値を満たすような中性子星のモデルはいくつも存在しているが、今後の観測研究によってさらに改良されると期待される。「より多くの中性子星合体が近いうちに観測され、そのデータから物質の内部構造についてさらに多くのことが明らかになるでしょう」(Bauswein さん)。
〈参照〉
- Heidelberg Institute for Theoretical Studies:Neutron Stars on the Brink of Collapse
- Astrophysical Journal Letters:Neutron-star radius constraints from GW170817 and future detections 論文
〈関連リンク〉
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