「ステファンの五つ子」で見つかった銀河の共食いの証拠
【2018年2月13日 Canada-France-Hawaii Telescope】
「ステファンの五つ子」はフランスの天文学者エドゥアール・ステファンによって1878年に発見された、ペガスス座の方向に位置する銀河の集団である。見かけ上5個の渦巻銀河と楕円銀河から構成されているが、そのうちNGC 7320という渦巻銀河は実際にはずっと近い距離(約3900万光年)にある天体で、残りの4個(約3億光年)は互いに重力を及ぼし合ってコンパクトな銀河群を作っている。
ステファンの五つ子はハッブル宇宙望遠鏡の撮影対象となったことで一躍有名になり、その画像は同望遠鏡の代表的な成果の一つとして知られている。また、銀河同士の衝突・合体や星流の形成、銀河ガス同士の衝突やスターバーストなど、様々な現象を伴う銀河集団の進化を研究する際に、典型的な天体としてステファンの五つ子がしばしば選ばれる。これまでにあらゆる波長の電磁波で広く観測され、また複雑な数値シミュレーションの対象にもなってきた。
仏・ストラスブール天文台のPierre-Alain Ducさんたちの研究チームは、米・ハワイのCFHT望遠鏡に搭載された3億8000万画素のカメラ「MegaCam」で、ステファンの五つ子を含む領域の長時間可視光線観測を行った。その結果、この銀河群のメンバーである楕円銀河NGC 7317を中心として、古い星からなる赤色のハローが広がっていることを検出した。
これまで、NGC 7317には銀河同士の相互作用の影響があまり見つかっていなかったため、銀河自体が安定した状態にあるか、あるいはごく最近にこの銀河群の近くに移動してきたばかりだと考えられてきた。今回の観測で赤色の星々がこの銀河の周囲に検出されたことで、これまでの見方とは逆に、NGC 7317は他のメンバー銀河と非常に長い期間にわたって相互作用し続けている可能性がでてきた。
今回見つかったような、銀河群の中で大きい銀河が及ぼす重力によって小さな銀河がゆっくりと解体される相互作用現象は「銀河の共食い(galactic cannibalism)」と呼ばれる。共食いによって、大きな銀河の周りを軌道運動する星流やハローが形成されるのが特徴で、NGC 7317の周囲に見られる赤い星のハローもそのような構造に似ている。このことから、ステファンの五つ子は現在考えられているよりもずっと年齢が古いことが示唆される。今回の発見により、この銀河群の生成・進化モデルに見直しが必要となるかもしれない。このような大規模な共食い現象が起こると、銀河群は最終的には一つの巨大楕円銀河になるはずだ。
今回の研究は、近傍銀河を淡い構造まで撮影するという観測手法が銀河天文学の分野で最近注目を集めていることを示す一例でもある。現在の観測プログラムの多くが、銀河の淡く広がった特徴的構造を直接検出することで過去の歴史を解明することを目標としている。このような手法は「銀河考古学」と呼ばれ、CFHTは特にこういった研究に適した望遠鏡だ。
〈参照〉
- Canada-France-Hawaii Telescope:Widespread galactic cannibalism in Stephan's Quintet revealed by CFHT
- Monthly Notices of the Royal Astronomical Society Letters:Revisiting Stephan's Quintet with deep optical images 論文
〈関連リンク〉
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー:ステファンの五つ子
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