銀河中心核を活性化した小銀河の合体を示す証拠

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くじら座の銀河M77は、見かけは穏やかながら中心核が非常に活動的だ。すばる望遠鏡による観測で、かつてM77が別の小銀河を飲み込み、M77中心の超大質量ブラックホールを活性化させていたことを示す証拠が見つかった。

【2017年10月31日 すばる望遠鏡国立天文台

くじら座の方向約5000万光年彼方に位置する渦巻銀河M77は、中心核が極端に明るいという特徴を持つ「セイファート銀河」の一つである。銀河の中心には太陽1000万個分ほどの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在すると考えられており、中心核からはジェットや強烈な光が放出されている。

M77
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ (HSC) で撮影されたM77の深撮像画像。銀河の色情報はスローン・デジタル・スカイ・サーベイの3色画像から抽出(提供:国立天文台/SDSS/David Hogg/Michael Blanton、画像処理:田中壱)

超大質量ブラックホールをこのように活動的なもの(活動銀河核)とするためには莫大な量のガスを供給し続ける必要があるが、中心核の周囲を回るガスは遠心力の影響のため、簡単にブラックホールへと落ちていくことがない。ガスがどのようにしてブラックホールへ落ちるのかについては様々な説が考えられているが、放送大学の谷口義明さんが約20年前に発表した説によると、銀河核が活動的になるうえで鍵を握るのは、銀河の近くにある小質量の「衛星銀河」との合体だという。

大きな親銀河と衛星銀河が合体する際に衛星銀河の中心にも小ぶりな超大質量ブラックホールが存在していると、衛星銀河のブラックホールが親銀河の中心まで落ちていく途中で親銀河中心の超大質量ブラックホール周囲のガス円盤を激しくかき乱すと考えられる。すると、乱されたガスは一気に中心にある超大質量ブラックホールに落下し、活動銀河核になる。落ちた衛星銀河は元々暗く軽いため、親銀河に飲み込まれたとしても影響は小さく、すぐに跡形もなくなってしまう。「セイファート銀河の多くは見かけ上、銀河合体のような『事件』の傷跡を持たず、通常の大人しい銀河に見えるという観測事実を説明できます」(谷口さん)。

一方で観測能力の向上により、かつては見ることができなかった銀河合体の微かな痕跡もとらえらるようになってきている。国立天文台ハワイ観測所の田中壱さんが谷口さんたちと共に、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCを使ってM77を観測したところ、銀河の明るい円盤のさらに外側に、広がった淡い腕がとらえられた。また、その反対側には渦巻腕とは明らかに違う、さざ波状の構造も現れた。いずれの構造も、最近他の研究グループが理論的に予想した「衛星銀河の合体で引き起こされる親銀河円盤上の構造」と驚くほど似ている。

M77周囲に新たに見つかった外部構造(左)と想像図(右)
(左)M77周囲に新たに見つかった極めて淡い外部構造。(赤茶部分)銀河円盤の外側の一つ腕構造(Banana)と、その反対側のさざ波構造(Ripple)。(黄色い丸)すばる望遠鏡で検出された巨大な淡い外部構造。UDO-NEとUDO-SWは大きなループ構造の一部と考えられる/(右)淡い構造を示した想像図(提供:(左)国立天文台/SDSS/David Hogg/Michael Blanton、画像処理:田中壱、(右)池下章裕)

さらに、親銀河のすぐ外側に、差し渡し5万光年にも及ぶ、これまでの観測ではほとんど見えていなかった極めて淡くぼんやりした雲状の構造が3つ発見された。そのうちの2つは、銀河本体を取り巻く直径約25万光年の巨大なループ状の構造の一部であることもわかった。こうしたループ構造も、衛星銀河の合体で形成される特徴的な構造であり、数十億年前にM77が自身の衛星銀河の一つを捕獲して飲み込んだ事を物語る観測的証拠となる。一見静かな孤立した銀河M77の過去に起こったらしい「事件」の証拠が見つかったことを受けて、谷口さんは「銀河は一切嘘をつかない。私たちは銀河の微かな声に耳を傾けなければならないと思いました」と語っている。

「すばる望遠鏡とHSCを使った観測研究で、今までは見えていなかった衛星銀河の合体の微かな証拠がこれからもどんどん見つかってくるでしょう。活動銀河核現象を引き起こすメカニズムを統一的に理解するための、重要な結果を得られると期待しています」(国立天文台 八木雅文さん)。