超大質量ブラックホールのそばに新種の分子ガス雲
【2017年3月16日 愛媛大学 宇宙進化研究センター】
天の川銀河の近傍(数億光年ほど)に存在する銀河のうち1割程度は、ひときわ明るく見える中心部分「活動銀河中心核」を持っている。これらの銀河の中心では、太陽の100万倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールにガスや塵が降り積もり、その時に解放される重力エネルギーが可視光線などの電磁波として放射される。
こうした活動銀河中心核の周辺に存在するガスや塵の性質、とくにそこからどの程度の割合で星が誕生するかを解明するため、徳島大学の古屋玲さんと放送大学の谷口義明さんはアルマ望遠鏡による電波観測データを解析した。
古屋さんたちは、くじら座の方向約5000万光年彼方にある活動銀河中心核を持つ渦巻銀河M77について、銀河中心からわずか50光年の至近距離に位置する分子ガス雲の性質を調べた。この分子ガス雲は太陽の約20万倍の質量を持ち、活発に星を生んでいるが、その質量と星生成率は、これまでの研究で「ギャップ」となっていた部分を埋めるものであることが明らかになった。
従来の研究で、分子ガス雲の質量と星生成率との間には良い相関があることが知られていた。しかし、「天の川銀河の分子ガス雲」と「活発に星を生んでいる遠方の銀河の分子ガス雲」の間には明瞭なギャップがあり、その部分がどうなっているのかは謎であった。M77の活動銀河中心核のすぐそばにある分子ガス雲は、まさにそのギャップを埋めるものだ。
古屋さんたちは当初「活動銀河中心核の周辺にある分子ガス雲は、超大質量ブラックホールの重力場や強烈な電磁波、ジェットによる影響を受けているはずなので、天の川銀河にある普通の分子ガス雲とは性質が違っているはずだ」と考えていた。しかし予想に反し、超大質量ブラックホールのすぐそばという過酷な環境においても、今まで知られていた法則にしたがって星が生まれていたことが明らかになった。分子ガス雲と星生成率の間にある法則が普遍的であることを示す結果だ。
今回の発見により、宇宙における星生成の原因を統一的に理解する研究への道が拓けてきた。さらに、他の活動銀河中心核の周辺にある分子ガス雲を系統的に研究することで、活動銀河中心核とその母銀河の進化に関する研究も進展することが期待される。
〈参照〉
- 愛媛大学 宇宙進化研究センター: 超巨大ブラックホールのそばに新種の分子ガス雲を発見 体重が増えると、出生率は上がる!
- Publications of the Astronomical Society of Japan: A massive dense gas cloud close to the nucleus of the Seyfert galaxy NGC 1068 論文
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡: http://alma.mtk.nao.ac.jp/
- アストロアーツ
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