活発な超大質量ブラックホールを取り巻く、回転するドーナツ状のガス雲
【2018年2月15日 アルマ望遠鏡】
ほぼすべての銀河の中心には、太陽の数十万倍から数億倍の質量をもつブラックホールが存在すると考えられている。また、これら超大質量ブラックホールの質量とその母銀河全体の質量に相関があることも知られている。
超大質量ブラックホールと銀河は互いに影響を及ぼしあいながら進化(共進化)してきたと考えられているが、銀河全体に対する超大質量ブラックホールの大きさは100億分の1と極めて小さいため、両者が具体的にどのように影響を及ぼしあっているのかは、まだよくわかっていない。
共進化を理解するうえで重要なのが、今まさに大量の物質を飲み込んで成長中の超大質量ブラックホールだ。こうしたブラックホールの周囲は、落下してくる物質の重力エネルギーを光に変えて活動銀河核として明るく輝いている。活動銀河核からは非常に強い光だけでなく高速のガス流が噴き出すこともあり、これらが周囲の銀河環境に大きな影響を与えると考えられていることから、活動銀河核は共進化の謎を解く鍵となる天体と言える。
国立天文台および総合研究大学院大学の今西昌俊さん、中西康一郎さんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、くじら座の渦巻銀河「M77」の中心部を詳細に観測した。M77は地球から約5000万光年の距離に位置しており、活動銀河核を持つ銀河としては比較的地球に近いことから、観測研究に適した天体だ。
その結果、M77中心の超大質量ブラックホールの周りを大きく取り巻く半径約700光年の馬蹄形をしたガス雲と、超大質量ブラックホールを包む半径約20光年のコンパクトなガス雲が明瞭に写し出された。
さらに、ガス分子が放つ電波のドップラー効果を測定したところ、コンパクトなガス雲が超大質量ブラックホールを中心に回転している様子が明瞭にとらえられた。
「活動銀河核の様々な特徴を自然に説明できることから、多くの研究者が、超大質量ブラックホールの周りをガスと塵の雲がドーナツ状に取り巻いているという『活動銀河核の統一モデル』を考えてきました。地球からはドーナツ状のガス雲は非常に小さくしか見えないので、その姿をはっきりととらえ、広がりやガスの動き、化学的性質などを調べることはこれまで困難でしたが、高い解像度を持つアルマ望遠鏡の登場により、直接観測して調べられるようになりました」(今西さん)。
今回の研究では、高密度のガス雲で強く電波を出すことが知られているシアン化水素分子とホルミルイオンからの電波を観測している。過去にはM77中心部からの一酸化炭素分子からの電波が観測され、今回の結果とは90度異なる方向に動くガスがとらえられていたものの、「回転するドーナツ状のガス雲が存在する」という統一モデルの立証には至っていなかった。回転運動を反映する適切な分子からの電波を選んで観測したことが、今回の成果につながっている。「これまでの観測から、ドーナツ状の塵やガス雲が東西方向に広がっていることは確かであり、私たちのデータは、その分布から期待される回転の様子とよく一致します」(今西さん)。
このほか、ドーナツ状のガス雲からの分子ガス輝線の強度が、ブラックホールをはさんだ東西で大きく異なっていること、ガスの運動は超大質量ブラックホールの重力だけに従う整った回転だけでなく、かき乱されたようなものがあることもわかった。これらはM77の中心部に別の銀河が衝突した名残かもしれないと考えられる。
アルマ望遠鏡が明らかにしたM77の活動銀河核の様子は、単純な「統一モデル」よりも複雑なものだったが、予測されていた「回転するドーナツ状のガス雲」の存在が観測ではっきりと確かめられたことには大きな意義がある。活動銀河核のエンジンである超大質量ブラックホールとそれを取り巻くガスの関係、そしてそれらを含む銀河全体との関係を一体的に理解するための確かな一歩となる成果だ。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:活動的な超巨大ブラックホールを取り巻くガスと塵のドーナツ ― 予言されていた回転ガス雲を初めて観測で確認
- The Astrophysical Journal Letters:ALMA Reveals an Inhomogeneous Compact Rotating Dense Molecular Torus at the NGC 1068 Nucleus 論文
〈関連リンク〉
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