- 岩波書店
- 18.5×12.7cm、128ページ
- ISBN 978-4000296519
- 価格 1,296円
書名からもお判り戴けるように、本書は天文の本ではない。だが、食変光星の観測を旨とする評者は、遙か昔から蚊の攻撃に悩んでいた。少なくとも深夜2時間以上の野外観測が要求される極小時の観測では、蚊のブーン(だから虫偏に文なのだ!)が聞こえてきたらもう一大事。夏場、半袖半ズボンなどもってのほか。蚊取り線香をボンボン焚いて、またそばには塗り薬を置いて、万全の蚊対策で、その筋ではいっぱしの専門家なのだ。
だから、観測家の皆さんには本書は絶対のお勧め本。要するに本書は蚊の生態学書。もちろんウンチクも盛りだくさん記されており、例えば平清盛の死因がマラリアだったこと、皆さんご存じですか。単なる病死あるいは武者との戦死ではなく、蚊との戦死なのだ。これがなければ、歴史が相当変わっていたかもしれない。また、あの有名な光源氏も三日熱マラリアという熱病死。
本書によれば、平安時代日本ではマラリアがごく当たり前の病気だったという。これは、同時代が地球全体温暖だったことと見事に符合し、当時は世界的に戦争、すなわち北方民族による侵略戦が少なかったこととも整合しているのだ。もちろん本書の本書たる所以の生理学・生態学的蚊の研究は、実におもしろい。評者はそれを蚊学と命名した。正しく本書は天体観測家に特にお勧めする、科学たる蚊学書なのである。