- 岩波書店
- 116ページ
- 定価 1760円
評者の学生時代、物理・化学・生物の各研究室の前を通りかかる度に、いやはや天文学の教室と雰囲気がまるで違うなと実感したものだ。他の研究室前では、プーンという匂いとかガタゴト音とかが漂っていた。いわゆる人や物の雰囲気が溢れていたからだが、天文学の研究室の前では全く異なっていた。無音、人が居ても寝ているのではないかと思うくらいで、暗いイメージが漂っていた。久しく大学に行っていないので、今はどうなっているか不明だが、大して変わっていないだろう。
だが、天文学の世界では大きく変化が起こった。それは1にも2にもプリズムのおかげである。本書冒頭の数枚の美しい写真で紹介されているプリズムや回折格子のおかげと言って良い。キルヒホッフ、ブンゼン、フラウンホーファーらは読者の皆さんもおなじみに違いない化学者たちだ。さらに、天文学者のセシリア・ペイン、ハッブル、ルメートルなど、多くの学者達がこの分野の発展に力を注いだ19世紀からの歴史が、本書で詳細に語られているのだ。
評者は、本書がこれまでにない宇宙化学の専門書だと評価する。そして、本書を天文書のコーナーで発見したある書店の店員さんも評価したい。つまり、本書のご紹介がすなわち天文学の近年の発展を意味しているのである。良い時代に皆さんは生きておられるのだ。