- 岩波書店
- A6判、217ページ
- ISBN 978-4-00-600203-9
- 価格 945円
地球はなぜ金星のようにならなかったのだろう? 地球が誕生時に火の玉だったことはほぼ確実だが、1000度も1500度もあった地表温度を支配していた二酸化炭素が、大陸が出来上がることによるプレートの沈み込み運動で地殻内に取り込まれ、替わって窒素と酸素が大気圏を支配した。こうした答えが本書にあった。すなわち本書は書名そのまま、宇宙における地球の存在を考えさせる、最新の地球学の本である。
評者は、五島プラネタリウムに在職していた約30年前、松井氏の講演会のオペレーターを担当するための打ち合わせで、東大地球物理学教室に先生を訪ねてお話をうかがったことがある。その研究が地震や気象といった地球物理学とはずいぶん違うということだけは当時理解することができたが、今では比較惑星学などと呼ばれ、天文学と兄弟みたいになったことは、本書の旧版と新版を比較してもわかる。
旧版が出版された1988年は、めざましい成果を見せたボイジャー計画など初期の惑星探査が一段落し、異常なバブル景気を背景に、火星改造などの話が世の中を飛び回っていた時期だった。やがて夢は破れたものの、むしろ科学は堅実に発展を遂げて、1995年以降、系外惑星の発見など天文学・惑星科学ともに大発見が続いた。その時期をまたいで展望する意味で、新版の出版は意義が深い。
著者は本書を「入門のそのまた入門書」と謙遜されるが、評者はそう思わない。地球温暖化の議論が騒がしい今日、IPCCの主張に賛成するにしても反対するにしても、筆者が主張するように、より客観的な科学的解析が必要に思えるからだ。
少なくとも天文学を学び、それを普及させようと考えている人は、絶対本書を読破するべきだ。天文学と異なり、地球学では隕石や地質・地磁気など、標本という実体を検査することができる。そのような手法の違いを本書から学ぶことができるのは、たぶん大きな収穫だと思う。本書を通して、一般の人々に科学におけるさまざまな手法の面白さ・有益性をぜひ伝えて欲しい。