- 朝日新聞社
- 四六判、257ページ
- ISBN 978-4-02-259905-6
- 価格 1,365円
ストレートなタイトルで、内容も至って科学的(医学的)なもの。1960年代初期からNASAで研究を続けている女性著者らしく、優しい語り口で好感が持てるが、内容はハードである。全編を通じてのキーワード“重力”が地球に生きる生命に如何に大きな影響を与えているかを、著者のライフワークとして詳細克明かつ判り易く解き明かしている。訳も平明でこなれた日本語なので、医学専門用語が多いに関わらず読みやすい。
骨や筋肉、姿勢、循環器系、視力、聴力、体内時計、寿命など、当たり前すぎて気づかない地球重力場に縛り付けられている人類が、新婚旅行や冒険飛行ばかりでなく、やがて他惑星への移住など、実際段階に突入しつつある現在、これからの宇宙少年・星少女を育成するプラネタリウム解説員や天文関係者にとっては熟読必須である。
重力がかからない宇宙空間では、宇宙酔いや骨密度の減少など切実な問題になるが、それは老化と同じという筆者の主張から、少しでも老化を抑えるための筋トレや食生活の改善が明確に見えてくる。具体例も豊富に提示され、医学的な実験研究の成果も多数紹介されている。著者は、老化は人が重力の影響を避けようとすることから始まると主張しているのだ。エスカレータを使わず、6階くらいまでは階段を利用しようとも呼びかける。
こういった実用面でのアドバイスも、本書には多数含まれている。例えばタバコを吸う(宇宙飛行士には禁煙が義務)と、造骨細胞の働きに悪影響が生じ、骨折や骨粗しょう症の危険度が高まるとか、腸でのカルシウム吸収を促すビタミンDの活性度を高める適量の紫外線照射が、太陽からの紫外線よけに宇宙船窓貼付フィルターで遮断され、その結果摂取カルシウムが体に吸収されず、飛行士がカルシウム欠乏症になる、口笛吹きやガム噛みは重力の影響を受けやすい下顎骨の発育に効果があるなど、評者は始めて本書で知ることができた。その意味で、どなたにもおすすめできる面白い本だ。