- 講談社 刊
- 17.2 x 11.4cm、210ページ
- 2009年8月
- ISBN978-4-06-149911-9
- 価格 620円
探偵小説や冒険小説、あるいはSFとは異なる純文学に浸るのは、評者には(少なくとも評論として)苦手な分野だが、宮沢賢治とサン=テグジュペリとは、星のおじいさんとしては目を離すことができない小説家である。なぜかといえば、その作品を読んで星の愛好家になってしまう人々や、プラネタリウムにおいでになる方々が多くおられるからだ。その人たちの感覚を理解しなければ、一流を目指す解説員になれないと評者は思うからである。
なので、評者は読める読めないに関わらず、日本語版やフランス語版(原書)は勿論のこと、英語版・ドイツ語版・イタリア語版、挙句の果てにはラテン語版まで買い集めてしまった。ラテン語版のタイトルは、驚くなかれ、Regulusですよ!すなわち「小さな王様」という意味。なお、「星の」と付けられているのは日本だけである。
本書は子供向けに書かれたというその作者の伝記だが、大人にもじゅうぶんに参考資料となる本である。いや、むしろ大人向きと考えたほうが良いかもしれない。なにしろ、王子様が星に置いてきた「赤いバラ」のモデルといわれる、奔放な芸術化肌の浪費家妻との難しい結婚生活や、そのために生活に困って懸賞金付きの長距離飛行レースに参加し、リビア砂漠に墜落してしまったエピソード(奇跡的に生還)、あるいはナチス・ドイツに報復するための偵察飛行で帰らぬ人となった経緯など、大人でしか理解できないだろうと思うからだ。
だが、なによりも本書を価値あるものとした部分は、1927年西サハラ砂漠に不時着し、収容先の仏軍駐屯地で見た夕方の満天の星空の体験である。これが星の王子様の原体験になった可能性が高いからである。その空(日付は不明)で見えた一番目の流星に、この夜が千年続きますように、二番目には手紙が来ますように、三番目には全世界の女性が優しくなるように、と祈ったという。
どうぞ、本書をお読みください。年表も、解説も、人物事典(ライト兄弟・リンドバーグ・ド=ゴール)も参考になります。