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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

火星の生命と大地46億年

表紙写真

  • 丸山茂徳、ジェームス・ドーム、ビック・ベーカー 著
  • 講談社
  • 四六判、256ページ
  • ISBN 978-4-06-154282-2
  • 価格 1,890円

冒頭から驚きの連続の本。巻頭カラー写真の地質断面図は「えっ、火星にもう地質学者って行っていたっけ」と錯覚してしまいそうだ。評者が学生時代、地質実習で長瀞の地質断面図を書かされた記憶が鮮明に蘇った。これが火星のそれであるのは、同じページに掲載された「中性子分光計観測からの氷の分布図」や「赤外線分光計での花崗岩と玄武岩分布図」「火星磁場分布」から推定できる。たった40年ほどで、こういう時代になったのである。

本書の展開はユニークだ。前半分が2030年ごろの有人火星探査のドラマで、もちろんSFである。ただし現代からじゅうぶんに想定できるストーリーだ。またその際、嫌気性細菌が発見されることになっている。著者らの自信はスゴイ。後半はその根拠となる現代までの火星探査史。しかし、著者たちがアピールするように、火星の研究が人類知性の爆発的発展の始まりであるというのは、本当にそのとおりだ。火星人信奉者・火星運河説で有名なローエルの観測は否定されたが、今日の惑星探査の巨大科学を推進させる原動力になったというのも本当である。国民主権の国家では、納税者全員がその重要性を理解できなければ、惑星探査のような巨大科学を推進させられないからであるという説明もそのとおりである。これはおそらく現代天文学のすべてにもいえることだと評者は思う。プラネタリウムにしても天文台の観測装置にしても、すべて巨額の投資が必要だからである。

当のローエルの小伝も役に立つ。ローエルが描いた夢も巡り巡って火星探査機で開いたと言うところか。そして、今では本書評冒頭でお話したように、少なくとも40年前の地球における地質学のレベルはじゅうぶんにオーバーしてしまった。現代における火星地質学最大の謎、30億年以上前にあった海水がどこへ行ってしまったのかについてが、本書後半で詳しく語られている。

しかもこれが地球環境の未来を考える上でも重要なポイントになるという。丸山先生といえば、環境論でも先鋒を行く論者として有名だ。現代火星学の好書として本書を皆様に推薦したい。

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