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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

宇宙最大の爆発天体 ガンマ線バースト

  • 村上敏夫 著
  • 講談社ブルーバックス 刊
  • 17.2 x 11.2cm、240ページ
  • 2014年3月
  • ISBN 978-4062578578

筆者宅の書斎コーナーにもおそらく100冊を超えるブルーバックス書があるが、本書は少なくとも近年出版の同ライブラリー中では最高の天文学の書の一冊である。なぜならガンマ(γ)線バーストが超最先端にある天体であり、本書に詳細に語られているとおり、一線級の理論・観測研究者たちがこぞって挑戦している分野で、ページをめくるたびにハラハラドキドキ、ただでさえ小さい筆者の心臓の鼓動が本を持つ手元に伝わってきたからだ。それほど本書とガンマ線天文学は面白い。もし筆者の目がガンマ線をとらえることが可能なら、毎晩間違いなくそちらに望遠鏡を向けるはずなのだが、それが無理なことは本書に詳細に説明されている。それゆえ近年まで詳細がわからなかったのだ!

ガンマ線バーストは宇宙一遠く、だから今流行中の「宇宙の一番星探し」にも有効なこと、すなわちビッグバンの後、宇宙の晴れ上がり、恒星や銀河の誕生プロセスの研究がガンマ線バーストの調査によって道が開けることが、本書を読むと実によくわかる。

本書の著者村上先生はこの分野での日本の第一人者である。その研究内容と状況を知るには、本書を熟読することが一番。記述と説明は決して難しくなく、むしろ先生のお人柄か、隅々まで丁寧でガンマ線バーストは初めてという方にもおそらくわかりやすいと感じられるはずだ。そして、この本を読むと、きっとあなたは天文学を学んで良かったと実感されることだろう。

宇宙最大のエネルギーを放出するガンマ線バーストから宇宙の起源をひもとく。著者は、X線ガンマ線宇宙物理学を専門とする村上敏夫氏。

「ガンマ線バースト」とは文字通り、電磁波の一種であるガンマ線が大量に放出される現象で、そのエネルギーは超新星爆発の数十倍から数百倍にもなる。30年前に発見されたこの現象は長年の謎だったが、宇宙初期にできた非常に重い星(大質量星)が寿命を終えてブラックホールになるとき重量崩壊で解放されるエネルギーだとわかった。この現象を調べることで、現在観測されているクエーサーよりさらに数億年も先の宇宙を探れると注目されている。

同書では、ガンマ線バーストの解明になぜ30年もかかったのか、科学者がどんな勘違いをしてきたのかを詳らかにしている。観測や論争を繰り返し、どのように追究していったのか、著者いわく「人と科学の歴史の記録」でもある。

ちなみに、ガンマ線バーストを使って「宇宙の暗黒時代」(宇宙の晴れ上がりを迎えてから最初の天体が誕生するまで)」と「宇宙の一番星」(宇宙誕生から数億年後に生まれたとされる最初の天体)を研究する人工衛星の名前は「ガンダム(GUNDAM=Gamma-ray bursts for Unraveling the DarkAges Mission)」というそうだ。