- 講談社
- 15×10.7cm、253ページ
- ISBN 978-4065130278
- 価格 1080円
1946年生まれの評者より10歳も年上の著者は、戦後教育を真っ先に受けた世代。他の誰よりも日本科学の発展史に深い関心と造詣をお持ちなのだろう。そのことがよく判る本である。初版が1968年(50周年)、アポロ11号の月着陸の前年のこと。だが、今読んでも新鮮な知識と感動が湧き出る本。否、今だからこそ。たとえば来日したイエズス会(Jesuitという英語に陰険な詭弁家という意味があることは本書で知った)宣教師ザビエルらが、会のローマ本部に送った書簡で、日本の庶民らが天体現象に強い関心を示し、何度も質問を繰り返したことに感心した! とあるが、実はそれが科学的関心に基づくものはなく、自分たちの質問に対して毛色も皮膚の色も自分たちとは異なる西洋人がどのように答えるか、好奇の目で見ていたからだという本質を突く見方に、評者は深い感動心を持った。
あるいは、日照りが続いたときにご神体を神社から引き出してグロテスクな魚を貢ぐという風習(今も続くかどうかは知らないが)は、神の怒りと信じられた天変地異をやめさせようとする行為であることも、本書で知った。だから科学をという訳ではないが、混雑とした日本に今こそ科学教育が必要なのではないかと思った次第である。麻田剛立・志筑忠雄・渋川春海…と続く日本の暦学者が何を考え、研究を進めたかが実によく理解できる。また、医家吉益東洞は「死体解剖は意味が無い。生きた物を扱う医学こそ有用である」と言ったが、この姿勢がそもそも科学ではないことを、如実に示している。本当に勉強になる本ですよ。