- 集英社
- 17.2×10.6cm、256ページ
- ISBN 978-4087208924
- 価格 821円
関西大学名誉教授でヨーロッパ文化論の研究者が書かれた書。だから隕石に限って論じられた本ではない。隕鉄から作られた仏像をめぐるナチスの関与如何についての調査報告書である。アーリア人種の優位性を確立しようとして、ヒットラーを筆頭とするナチスが、モンゴルとロシア国境に送った調査隊が入手したかもしれなかった隕鉄製仏像について語られており、結局ナチスならさもありなんという結論(もちろんそれ自体面白い)になるが、アタキサイト隕鉄を含め、傍らを取り巻く種々な知識が評者には最大の収穫だった。
そもそも仏像とは何か? 読者の皆さんも、お寺に行かれる機会にじっくり眺めてご覧になる、というより観察されることをお勧めしたい。すると、誰が何時如何なる立場からそれを製作したかが判るのだそうだ。隕石仏像がやや斜めに身構えていることから、チベット仏教系ではなくインド仏像をモデルにしているが、頭帽は明らかに早くても14世紀後半のチベット仏教系だという。かつて評者も日食のコロナと関連して調べたことがある光背も、重要な観察ポイント。チベット仏教系に多いデザインだが、つんつるてんで至ってシンプルなのが隕石仏像のそれで、単に真似ただけのものらしい。その他着衣・耳飾り・鎧など記述され、中でも卍についての研究は歴史に残るものとなるはずだ。鳥葬と隕石の議論も皆さんをきっとわくわくさせることになるだろう。お勧めします。