- 小学館
- A5判
- ISBN 978-4-09-182079-2
- 価格 1,500円
評者のごときオジイサンには、「MOONLIGHT MILE完全ガイド」は完全に意味がなかったが、その他の文章は実に素晴らしい歴史資料になった。日本人の目で見た宇宙開拓史で、日本人が米ソおよび日本の活動からどのように(とくに思想的に)影響を受けたかが如実にわかる。評者は知らなかったが、月の石が豊島園に来たときに来館者はガラガラだったことや、有名な「ザ・ライト・スタッフ」の著者トム・ウルフのとんでもない異能さなど、まったく「!!!」である。
宇宙開発評論家とばかり思っていた野田昌宏さんがSFファンから「大元帥」と呼ばれる人ばかりでなく、なんとガチャピンのモデルだったなど、それに原田三男・糸川英夫・西山千・中曽根康弘・的川泰宣・アニリール・セルカンの思いもかけぬエピソードまで、とても1,500円(税込)とは思えない圧倒的情報量だ。アポロ指令船が太平洋に着水したとき、月からの未知の細菌汚染を警戒して消毒に使用されたポピドンヨードという薬剤は、うがい薬で有名なあのイソジン(我が家にもある)であり、その日本発売元がアポロチョコレートの明治製菓だったなんて、皆さん知っていましたか?
「選挙の票にはならなかったが、原子力・宇宙開発・大脳生理学が将来の日本に重要だと思っていた」と述べる中曽根氏は、「夢に遊んだ月へ人類が足を踏み込んでしまい動揺した」ともいい、「なぜ地球ができたか、なぜ人類がいるのか、なぜ宇宙が安定構造になっているのか、そういう疑問を究め、宇宙を実証的に科学的に見なきゃいけない」と主張する。
的川氏は、西洋人が首をかしげる「宇宙を軸とした命の重要性を認識させる教育理念」は、東洋人の研究者が生理的に共有してくれる、と語る。
ともかく本書は面白く、しかも勉強になる。おすすめしたい。