- 日本放送出版協会
- 四六判、219ページ
- ISBN 978-4-14-091115-0
- 価格 1,124円
書店で本を買うとき、平積みの中から丁寧に掘り出して、誰も触れていなさそうな、表紙に傷も指紋も付いてないフレッシュなものを見つけること。店員に丁寧にカバーを付けてもらうこと。その際じゅうぶん監視すること。帰宅まで下手に取り扱わないこと。
本書は絶対にこの鉄則を厳守する必要がある。なにしろ、表紙にして既に貴重な画像が印刷されているからだ。カバー裏の説明文にあるように、2008年現在の科学的月像が、見るからにほれぼれする絵として描かれている。これこそ、本書のホンブンであり、本文そのものを示しているのだ。
だが、その説明文を読むだけでも、「明らかではない」「不確かで」「確証はいまだだにない」「謎である」のオンパレード。つまるところ、これこそかぐや以降の最新科学としての月研究の現状だ。それが詳しくかつ平易に説明されているのが本書である。その意味では副題は正しくない。残された謎…というとちょっとしかないように錯覚されるが、膨大な謎であふれているのだ。評者が勝手に推測するに、この副題と第1章および第2章の一部は、出版社の営業方針で、より一般の読者層への浸透をねらって挿入されたものではないだろうか。第3章〜第7章の内容とかけ離れているからだ。学術書ではないから、全国の書店で必ずしも科学書コーナーに置かれるとは限らないが、売れ筋からいっても後半のレベルからいっても、科学に強い人が購入する本だろうと考える。逆に最初の部分に強い関心を持つ人が購入するとは思えない。すると、この部分の話題は息抜き程度にコラム化するか、第3章以降に分散させるかが良いのではなかっただろうか。関係者には検討願いたい。
評者が若かったころ「月の研究に手を染め始めた天文学者と地質学者の老い先は短い」と言われた。そして本当にそうだった。なぜかというと、要するに体力が弱まり長時間の夜間観測や天文台への遠征ができなくなった天文学者と、足腰が弱まりフィールドワークが不可能になった地質学者は、暇つぶしに月に最後の足跡を求めたのだった。だが、現在はまったく異なり、体力と能力があふれた若い人でないと、最新研究装置を駆使した月の科学探査はほぼ不可能だ。ともかく月質学という新しい研究分野の誕生を、この本でみなさんに十分に堪能してもらいたい。
月探査機「かぐや」の成果がこれからというときに「最新」とは? そう疑問に思うかもしれない。本書は、現時点での月に対する科学的知見の最先端を平易な文章で解説したもの。「かぐや」の成果しだいでは、一部が古い記述になる可能性があるが、著者はあえてこの時期に出版したに違いない。本書で紹介された月の謎や知見は、「かぐや」が解き明かしたり、あるいは裏付けることが期待される課題なのだ。月の永久影に水はあるのか? 月の起源は? あらかじめ疑問を自分のものにしているかどうかで、「かぐや」の観測結果に対する感動も変わるはずだ。月面探査ラッシュの時代を迎えるにあたり、ぜひ一読したい好著。