- 早川書房
- A6変型判、217ページ
- ISBN 978-4-15-050354-3
- 価格 672円
ツィオルコフスキーやゴダード以来、宇宙飛行には当然ロケットだったが、1959年に究極の輸送形態が一人の学生ユーリー・アルツターノフによって提案された。それが軌道エレベーターである。ちなみに本書によれば、宇宙飛行の元祖ツィオルコフスキーも、この構想の途中まで良い線を行っていたそうだ。
さらに本書によれば、エレベーターに必要な長さで切れてしまわないケーブルを作るのは絶対に不可能と考えられてきたが、1991年にNEC基礎研究所の飯島先生がカーボン・ナノチューブを発見され、2008年にケンブリッジ大学のチームによって、これを必要なだけ伸ばすめどがたったという。夢物語でなく実現に向けて、技術開発が確実に進んでいるという。あとは資金の問題だけともいえる。さあ、日本の政権はそこに資金を出すかどうか。
本書記事のカーボン・ナノチューブ製造に必要なカーボンの供給をどうするかという話は非常に面白い。小惑星を捕獲し、地球上空の静止軌道に固定させるというアイデアだ。衝突の危険を逆に利用して、夢につなげるという話は、評者も人間であってつくづく良かったと感じ入っている。
工学博士でSF作家としても有名な石原氏と、サイエンス・ライターとして評者も何冊か著書を読ませていただいている金子氏とは、評者は残念ながら面識がないが、実によく調査が行き渡っており、本書の説得力は非常に高い。金子氏と宇宙エレベーター協会会長の大野修一氏との対談も、評者には本文記事同様初めて聞く話ばかりだが、堅実な未来性を読み取ることができて、大変に面白い。軌道エレベーターについての研究を、より多数の方によって深めて欲しいものである。