- 文藝春秋
- 四六変型判、320ページ
- ISBN 978-4-16-370480-7
- 価格 2,200円
評者は、最近書店の書棚に陳列されている天文書の多数が、なぜ面白くないか、ある天文愛好家から尋ねられたことがある。その人は特に特定の著者群の書籍(特に宇宙論などを研究する日本の物理学者が書いた本)は絶対に購入しないそうだ。そのとき、評者は「天文少年だった人が書いた本じゃないからではないですか」と答えた。本書を読んで、それは正解だったと確信した。本書がものすごく面白いし、難しいことがどんどんと頭にしみ込んでいったからだ。著者は10歳のころ、近所の大工さんに宇宙船を作ってくださいと頼んだ宇宙少年だったのだ(ただし現在は惑星地質学者)!
だからこそ、著者の一生が本書に乗り移っているのである。そんじょそこらのライターが片手間にあるいは資金稼ぎにチョコチョコ書いたものではないことが、のっけから読み取れる。なので、本書は学部学生クラスが気軽に読んで理解できる本ではない。じっくり通読した後、必要に応じて各惑星の章を吟味熟読すべき本だ。今こそ水星探査が必要である理由も、バイキング火星探査が失敗だったことも、はやぶさミッションがなぜ快挙だったのかも、ボイジャーやカッシーニ探査の歴史的意味合いも、著者がターミネーション・ショックと呼ぶ豊かな太陽系外縁部や系外惑星探査の意義も、すべて原題"LIVES OF THE PLANETS:A Natural History of the Solar System"に表現されている。
また、本書表紙裏に出ている著者の温かい表情を写した写真を見ながら、本書を通読し、著述という人間わざに関して深く考える機会が与えられた。
なので、本書評をお読みいただくみなさんにここで申し上げよう。本書評にあえて紹介しない出版物は、(少なくとも評者には)良いとは思えないものとお考え頂いてよい。評者は、お客様の質問や期待に応える大切な仕事に携わる天文解説員が、読むべき天文書を期待している(これこそこだわりの由縁)からである。