- 祥伝社 刊
- 10.4×15.5cm、248ページ
- ISBN 978-4396316792
- 価格 648円
本書のテーマは、単なるSF的童話のかぐや姫ではない。実在の人物、それも古代史を飾った蘇我氏と藤原氏の実話である。と同時に、日本書紀を基にしたこれまでの誤った日本史観をただす本である。評者も、読み始めは月に帰還するというSF的発想が、古代日本においてどうして生まれたのかという、やや科学的な関心からだったが、途中からはそんな浅はかな疑問はかなぐり捨てて、歴史を糾弾するところの面白さにはまってしまった。
栄華を誇った藤原一族=善人、日本書紀で徹底的に罵られた蘇我一族=悪人説が、かぐや姫の物語を通して完全に覆るという本書の意図は、判りやすいばかりでなく、歴史観というものが如何に誤りやすいかを教示してくれる典型であることが本書からよく判る。
実はかぐや姫が主人公なのではなく、竹取の翁を主役にした、反体制派による天皇とその側近への糾弾の書なのだ。評者が五島プラネタリウム解説員だった頃、偽書と言われた上つ記(うえつふみ:独自の暦を持つ)の研究者元TBS記者故田中勝也氏から山窩(さんか:竹製品を売り歩く弾圧されていた人々)について紹介されたことに思いふけったのである。同じ著者で同じ文庫の『古代史で読みとく桃太郎伝説の謎』も購入し、読みふけってしまった。決して童話と侮るなかれ。その中に歴史の謎を読み解く、誠に重要な鍵があるのだ。