- 日本評論社
- 四六判、304ページ
- ISBN4-535-78423-X
- 価格 2,310円
探査衛星COBEによる宇宙背景放射の観測プロジェクトを率いたNASAの科学者が、今年のノーベル物理学賞を受賞したところへ、タイムリーな発刊。COBEの後継機であるWMAPの開発から宇宙年齢137億年という成果を得るまでを、「タイム」誌の科学記者がつづる。21世紀最初の大発見を成し遂げた衛星の開発ドラマだ。
タイム誌初め各種雑誌への寄稿で幾多の賞を受けた著名科学記者の調査力とウィットに富む文を、著者と同業の訳者が見事に和訳した面白く読みやすい本。通常この種のアプローチには二形式があり、ここまでわかりましたという理論家型(上意下達式)と、こうしてわかりましたという観測家型(ルポ式)だ。科学記者の論法は一般に後者型。解説員もお客様への説明には断然後者型。理路整然さには劣るがドキドキ度は圧倒的に後者の勝ち。
とくに宇宙背景放射及びその揺らぎ発見に関する記述は賞賛に値し、多数の学者と観測家が見出しながら、その重要性に気づかず、結局背景放射の発見とはならなかったことや、揺らぎ発見時の関係者相互のトラブルなど、評者にはこの本で初めて知ることができた。
初代宇宙背景放射探査機COBEのあとを次いだWMAP開発を記す後半部は、特にドラマチックで、ビッグサイエンスにかかわる研究者たちの様様な人間模様を余すところなく描き出しており、評者のような単なる解説者にも深く考えさせるものとなった。
本書の更なる特徴は、訳者自身が付した多量な注釈だ。話題が多く、ややもすると筋道が不明瞭になりがちな科学記者の文章を、親切で当を得た注釈で適切にカバーしている上、編集者の都合で章・巻末に置かれがちなそれを同じ見開きページ左端に配置し、参照しやすくしてくれた。宇宙論および現代天文学史に関心をお持ちの方に、広くおすすめしたい。