- 地人書館
- 四六判、308ページ
- ISBN4-8052-0776-0
- 価格 2,310円
恒星と惑星の精密な位置観測を行ったティコ・ブラーエと、ティコの助手で彼の死後に遺された膨大な観測をもとに惑星運動の三法則を発見したケプラー。ところが、本書によればケプラーは最初からティコの観測結果を目的に彼に近づき、死のどさくさに紛れて奪ったばかりか、ティコを毒殺したというのだ。最新の化学分析や、さまざまな状況証拠が、ケプラーを容疑者に浮上させる。
一言で言えば、ショッキングな本。エレガントには推理小説、ハードには告訴状。あなたがもし裁判官なら、間違いなく有罪と判決するだろう。ティコ・ブラーエの死亡について、ケプラーが如何に深くかかわったかを論証した後半は、ケプラーも構築者の一人といわれた近代科学が、皮肉にも当人に下した過酷な判決文になった。
前半は、もちろん惑星の三運動法則、超新星、屈折望遠鏡、ベツレヘムの星=木星土星会合説など、ケプラーが後世に残した偉大な(といってもこの本を読んだ後は色あせてしまう)業績をたどりつつ、ケプラーの精神構造を深く抉り出し、最近まで伝えられていたブラーエの専制君主的人物像の誤りをもあぶりだす。息をもつかせぬ面白さ。評者は300ページほどの同書を2日間で一気に読み終えてしまった。世に言う天文学者=善人説を徹底的に覆すもの。天文学史に関心をもたれる方必読の書である。