- 地人書館
- 大型本、815ページ
- ISBN4-8052-0787-6
- 価格 25,200円
評者も仕事柄、古くは故荒木俊馬先生のものをはじめ、故鈴木敬信先生、ワイゲルト、イリングワースなどこれまで和洋多種の天文学事典を重要参考書としてきたが、またまた大事典が一冊それに加わった。しかもこの書は、評者もプラネタリウム界の大先輩として尊敬する故山田卓先生の発案から出発したものだという。そしてその趣旨は、入門的な事典ではなく、とかくそれらでは割愛されがちな基礎の位置天文学から、素粒子論が絡んだ最新天文学までを網羅するものだという。とても短時間で読みつくせるものではないので、あちこち思いつく項目を調べただけだが、131名にも達する新進〜老練天文学者の執筆により、まさにその理想は山田先生の考え通り達成されたといえる。必要な写真は十分に挿入されているが、ありがちな写真集のような事典ではない。あくまでも文字量で勝負、旧来の西洋型(聖書型)大事典で、座右のものとして頼れる書物となった。
だが、本書は価格はもとより完読にも相当な覚悟が必要だ。評者は本書を完読するために毎日約3時間の通勤往復時間をかけることができたが、それでもほぼ10日間が必要だった。ために「こだわり天文夜話」の取材がばっちりできたが、もはや、いやはやという感じ!価格の100倍以上の価値ある書物なのだ!
天文や宇宙の事典(辞典)と称する書籍は多いが、その多くは事典の形をとった解説書やビジュアル重視の入門書で、オーソドックスな天文学の事典は意外と少ない。あったとしても初版がかなり古かったり、あるいは非常に専門性が高いものだったりで、ちょっとした調べ物に使える事典は長らく存在しなかった。天文書の老舗出版社から発行された本書は、130余名の執筆陣を擁し、企画から10年の歳月をかけて完成したという労作だ。約5,000もの見出し語数を誇るが、項目の扱いに大中小のメリハリをつけ、この種の事典としては比較的コンパクトに仕上がっている。星座や星雲星団の固有名などのライトな(?)項目や天体写真も多く、天文版「イミダス」のおもむき。項目選択に天文教育普及関係者やマスメディア関係者などを読者対象として強く意識しているように感じるのは、山田卓氏(元名古屋市科学館天文主幹。完成を待たずに故人となられた)が編集主幹であるためだろうか。将来の改訂頻度しだいでは、岩波書店の理化学辞典や生物学辞典のような、天文学における定番の事典になるかもしれない。