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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

不都合な生命 地球2億2500万年銀河の旅

表紙写真

  • チャールズ・S・コケル 著/大蔵雄之助 訳
  • 麗澤大学出版会 刊
  • 19.2 x 13.2cm、220ページ
  • 2009年1月
  • ISBN978-4-89205-570-6
  • 価格 2,310円

本書の原題名を記しておく。著者の意図が読み取れるからだ。

IMPOSSIBLE EXTINCTION - Natural catastrophes and the supremacy of the microbial world.

要するに、太陽付近で2億2500万年を周期とする銀河の回転によって絶滅・進化が繰り返されたという観点で地球生命の歴史を論じるという、非常にユニークな内容の本だ。

著者コケル氏は、本書表紙裏に記された紹介によれば、イギリス南極調査所とNASAエイムズ研究センター(いわゆるSETI計画の元締め)に所属する新進の微生物学者である。いわゆる地球外生命体や有人火星探査計画に強く関心を持っている博士なのだ。その人が書いた本だから、当然地球上だけの生物学的観点からではなく、宇宙学的な見方による生命観によったもので大変にユニークな記事ばかりが論じられていて面白い。

評者には微生物学の知識が不足しているので、詳細なことを論じることはできないが、大いなる魅力を感じることはできる。なにしろ1周2億2500万年ですよ。この間には、確かに恐竜が絶滅し、哺乳類の時代となり、新参の人類が(最近にはもっと新人類も)出現しているのだから、銀河回転が無視できそうにないことは明らかだ。

本書の魅力は、それがSFではなく、詳細な科学調査に裏付けられていることである。銀河系や太陽系に強く関心を持つみなさんはもちろんのこと、生物学、特に宇宙生物学に関心が深い方には必読の書といってよい。

残念ながら、元大學教授で東京の区教育委員長をされた学者である訳者に、天文学の基礎知識をもう少々お持ちいただければ、訳文の不明さが防げたのではないかと思う。できれば天文学者の監修があれば、天文学的によりわかりやすい本になったはず、と思えるのがとても残念だ。

例えば、今では138億年とされるビッグバンが150億年前とされているのは、原書出版が2003年であることからやむをえないとしてもいくらか工夫の余地があったのではないだろうか。また評者は、あちこちでギョギョッとさせられた。例えば、銀河の近隣集団は局部銀河群とのことだったし、星団と訳されたものは明らかに銀河団のことであり、銀河星団も銀河群で、星間星雲は星間ガスのことであった。

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