長い間“宇宙”は、地球から見上げて観察するだけの対象だった。しかし、20世紀に各国で宇宙開発が進むと、宇宙は人間が向かう場所になり、地球での生活を延長したように積極的に関わる場所になった。今回は、そんな“手を伸ばせば届きそうな身近な宇宙”にまつわる本を紹介する。
「ミッション・トゥ・マーズ」は火星入植計画について語った本だが、その著者がバズ・オルドリンとなると、夢のような計画もぐっと信憑性が増してくる。ご存じのように彼は、アポロ11号でニール・アームストロング氏と人類初の月面歩行をした宇宙飛行士だ。NASAと空軍を退いてからは、有人宇宙探査におけるアメリカのリーダーシップ維持に努めてきたという。そのせいか、全編にわたってアメリカの立場が強調されているが、彼の提案する計画自体はなかなか興味深い。火星の衛星フォボスを足がかりにして、2035年までに人間を火星に着陸させるという。そのアイディアと語りには、80歳過ぎとは思えないエネルギーを感じる。
月にしろ火星にしろ、人類が宇宙へ出て行くにはロケットが欠かせないが、新たにそれに代わる移動手段として宇宙エレベーターが提唱されている。その名もズバリ「宇宙エレベーターの本」は、構造と課題、そして課題をクリアした後の未来の状況について、宇宙エレベーター協会がまとめた一冊。先日開催された「宇宙博2014」でも宇宙エレベーターのモデルが展示されているように、これからの宇宙開発において触れずにはいられないツールだろう。第2章の「宇宙エレベーターについて著名人に聞く」では、ジャーナリスト・起業家・映画監督・宇宙飛行士というバラエティーに富んだ人たちを相手に、協会会長がさまざまな角度からインタビューをしていてユニークな内容になっている。また、最終章の「もっと詳しく知りたい! 宇宙エレベーターQ&A集」は、基本的なことをわかりやすくまとめていて便利。
ここまでは人類が宇宙へ行くことについて扱った本を見てきたが、次は宇宙から地球にやってくる天体について検証する。「地球接近天体」は、地球に近づく小惑星や彗星なとの小天体を、体系的に紹介した解説書。おそらく、ここまで本格的に地球接近天体について分析した本は少ないだろう。地球接近天体がどこでどのようにでき、接近した場合は地球にどんな影響を与えるのか。そして、地球と衝突する被害を受けないために、地球接近天体を早く発見し追跡し衝突を避けることの必要性が語られている。万が一にも、大型の天体が地球に衝突(落下)してきたらどんな影響が出るのか、2013年のロシア・チェリャビンスク隕石の被害を知っている我々にはすぐに想像がつく。「遠い未来のいつかのため」ではなく、もはや地震予知のごとく「いつ起こってもおかしくない事態に備えて」地球接近天体の回避は欠かせない研究だ。宇宙開発が国境を越えて協力する時代であるように、天体の接近や落下防御も地球全体で協力する必要があるだろう。たとえ自分の真上に落ちてこなくても、落下物のサイズによっては地球規模の変動を起こす可能性があるのだから。
次に紹介する「恒星と惑星−手のひらに広がる夜空の世界」は、手を伸ばせる範疇である(探査や開発の対象となる)太陽系から、手の届かないほど遠い星も含めた、あらゆる天体の基本的な情報をまとめたガイドブック。惑星と星団や銀河について、そして毎月の星空案内をしながら88星座を解説している。図鑑なみの厚みがあるが、サイズは比較的コンパクトで、紙がしなやかでページをめくりやすく、オールカラーの写真や図版が美しい。天文初心者なら1冊手元に置いておけば、調べものや天体観測のとききっと役に立つだろう。
最後は、DVD「若田船長ISSから生中継」を紹介しよう。若田光一宇宙飛行士は、これまでに4度宇宙へ行き、2013年11月7日から2014年5月14日まで国際宇宙センター(ISS)に長期滞在した。第39次ミッションでは、日本人初の船長(コマンダー)に就任しその任務を果たしたことは記憶に新しい。このDVDでは、宇宙飛行士になるまでの訓練やISSでの生活風景、そして船長就任後の3月15日に行われた「ISSからの生中継」などが納められている。宇宙飛行士の生活に興味ある人はもちろん、若田さんがISSから撮影した地球や宇宙の美しい風景を見たい人にもおすすめ。