Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2014年11月号掲載
われわれはどこから来たのか

いきなりだが、「宇宙はムラムラしている」らしい。片仮名で“ムラムラ”と書くと、「強い感情や衝動が急にわき起こるさま(広辞苑)」を思い浮かべてしまうが、「叢叢・群群」の方で、「そこここにむらがっているさま。また、群れて勢いよく移動したり集まったりするさま」のことで、宇宙は誕生時も現在も叢叢もしくは群群しているという。そんな“宇宙のムラムラ”を教えてくれる本が「ムラムラする宇宙」 だ。とにかくインパクトのあるタイトルで、表紙を見ているだけでムラムラ(この場合は天文に萌える・燃える感情)しそう。1章で「宇宙のQA」、2章で「天文学者に100の質問」、3章で「ムラムラする宇宙論」について、わかりやすく楽しく答えている。宇宙について魅力的に解説してくれるから、天文初心者でも楽しく最新宇宙論までたどりつけるだろう。多くの天文Q&A本の中でも、著者の吉田直紀氏の人柄が伝わってくる(とくに2章)ユニークで親しみやすい一冊だ。これを読んだ子どもは、自分もこんな科学者(天文に限らず自分の興味あることを探究する研究者)になりたいと思うだろう。素晴らしい天文学者が生まれることを願う。

次は、タイトルに「138億年」を掲げた本を2冊紹介する。「あなたの知らない宇宙 138億年の謎」 は、81のテーマについて見開き2ページで次々に答えていく。太陽系や銀河について、地球外生命体は存在するのか、宇宙の誕生と未来、そして最後に宇宙探査50年史について、最新情報を解説していく。来年2015年は、国連とユネスコにより「世界ひかり年」と定められた。アインシュタインが一般相対性理論を発表してから百年を迎えることに由来する。138億年前にビッグバンで光が誕生してから現在までについて、本を読みながら思いを馳せたい。

そして、もう1冊は「地球・生命‐138億年の進化」 。こちらは宇宙の長い歴史の中でも、とくに地球の進化と生命の誕生にクローズアップしたもの。「天文」というより「地学」のジャンルだが、地球の構造や地質時代、そして人類の誕生を多くあつかっている。読んでいると、「今の地球や人類の存在は、長い宇宙の歴史において、奇跡的な一瞬なのかも」と思えてくる。

「生命の起源」 では、さらに生命に接近していく。生命の意味、宇宙との関連、火星と生命、地球生命はどこから来たか。内容だけ羅列すると、なんだか哲学書のように見えてくるが、もちろんしっかり科学的に解説している。ちなみに、原題は『第五の奇跡‐生命の起源と意味を求めて』で、旧約聖書の「創世記」の一文に由来するそうだ。生命が5番目の奇跡だとすると、それに先立つ奇跡は「世界の創造」「光の創造」「天空の創造」「陸地の創造」の4つ。こうして並べると、まさに宇宙の発展をたどっているようだ。それぞれの創造は“奇跡的な偶然”ではなく、宇宙の法則にのっとった必然だと教えてくれる。

さて、ここまで紹介した本には、すべて(ほぼ)同じ言葉が書かれていた。それは「私たち人間はどこからきたのか」という問いだ。その答えを知るために“人間を誕生させた地球を誕生させた宇宙の誕生”をさぐるのが「宇宙の果てはどうなっているのか?」 。著者の大内正己氏のチームはすばる望遠鏡による観測で、130億光年先にある天体、つまり130億年昔の巨大天体ヒミコを発見した。見つけるまでの過程について、発見者ならではの秘話を交えつつ語っており、観測天文学の最前線がよくわかる。最終章では、ヒミコの正体を探るべく、5つの仮説を立て、順を追って丁寧に解説していく。

今回紹介した5冊の本はどれも、同じ目的を持って書かれていた。私たちは「われわれはどこへ行くのか」つまり「宇宙の未来」を知るために、宇宙の誕生と現在を研究しているのだ。