油井亀美也宇宙飛行士が7月23日から国際宇宙ステーションに滞在し、さまざまなミッションを行っている。これまでに多くの日本人が宇宙に行き、半年間もの長期滞在をする宇宙飛行士も多くなっている。もはや“宇宙に出張中”といった感じで、私たちも「誰かが宇宙を飛んでいる」ことが当たり前になってきた。そんな現代において、人間の活動の場を宇宙に拡大する意味と価値を「人文社会学的な観点」から考察した本が『なぜ、人は宇宙をめざすのか』だ。「人類が宇宙を目指す理由」「宇宙に進出し定住したら、人類はどう変化するのか」について、科学者や工学者だけでなく、哲学者・心理学者・倫理学者・宗教学者・法学者・芸術家・宇宙飛行士など多彩なメンバーが、研究会を開き検討している。その発想の源はカントの“人間学”で、彼の時代ではありえなかった宇宙にまで人間学の対象を広げたものである。地球を離れた宇宙では人間の五感が変わる。人間学の出発点が変わることで、文化的思考も変わる。もしかしたら、「自国の保護と利益の追求」ばかり目指す思想も、宇宙的感性では「地球の保護と人類の幸福の追求」に変わるかもしれない(映画では、異星人の攻撃や放射能汚染によって、地球人の思考が変わることが多いのだが…)。
では、実際に宇宙に行った人の意見はどうだろうか。『宇宙飛行士が教える地球の歩き方』によると、「宇宙になんて行かなくても、宇宙飛行士の考え方は学べる。見方さえ変えてやればね」ということだ。カナダ人宇宙飛行士で、写真家やミュージシャンとしても人気の高いクリス・ハドフィールドが、宇宙での滞在とその準備を通して得た「地球でよりよく生きるためのヒント」を軽快な言葉で教えてくれる。
さて、先ほど異星人という言葉を使ったが、正しくは「地球外生命体」ということになる。宇宙に生命の起源を求める「アストロバイオロジー(宇宙生物学)」は、いま注目を集める研究分野のひとつである。この学問について、学術的なテキストにまとめたのが『宇宙生命論』だ。天文学・生物学・地球科学・人類学の研究者が、6年にわたる研究会の成果を分担執筆している。同じテーマを、一般の読者にも理解しやすいように、わかりやすく書いたのが『地球外生命体』だ。やがて完成する次世代超大型天体望遠鏡を使えば、太陽近傍の恒星を詳しく観測でき、ハビタブル(居住可能)ゾーンに地球サイズの惑星を見つけて、大気の温度や組成を調べることができるかもしれないという。いつか出会うであろう生命体とは友好的な関係を築きたいものだ。
新しい学術分野は次々に誕生しており、「宇宙気候学」もそのひとつである。『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか』は、「地球が宇宙からの影響を受けている」という視点で地球の変動をとらえようとする学問。私たちがもっともイメージしやすいのは、太陽活動だろう。そのエネルギーは地球の温度に影響し、太陽フレアは地球の磁場に影響を及ぼす。そう考えると、地球自体がハビタブルゾーンでいられるかどうかも、宇宙の環境次第といえる。
最後に紹介する学問のテーマは、「心」である。著名な物理学者が「自然界のすべてを見わたして、大きな謎をあげるとしたら、心と宇宙だ」といって著したのが『フューチャー・オブ・マインド』だ。物理学者から見た“意識”とは何か、心をテーマに人類の未来を探るサイエンス・ノンフィクション。テレパシーや念力などもすべて科学的理論で解説し、最後には地球外生命体(エイリアンと表記)とのファーストコンタクトについても分析する。謎が掘り下げられるたびに、新しい知識感覚を身につけることができ、新しい“人間学”も広がっていくようだ。