Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2016年3月号掲載
魅力的な天体に迫るそれぞれの方法

「星雲や星団を撮影するのが好き」「日食や流星群などの天体ショーにワクワクする」「極地のオーロラやニュージーランドの天の川を見に行きたい」など、同じ天文ファンでも人によって関心を寄せるテーマはさまざまだ。しかし、興味が向かう対象は違っても、宇宙の神秘や美しさを追い求める熱意に変わりはない。今回は、さまざまな方向から天体・現象に迫る書籍を紹介しよう。

『世界でいちばん素敵な夜空の教室』 は“世界でいちばん簡単な夜空の教室”とも言い換えられそうなほど、シンプルでわかりやすい初心者向き解説書。日本星景写真協会メンバーが世界各地で撮影した星景写真に、東京都の多摩六都科学館スタッフが解説を添えている。例えば、「鹿児島湾と桜島」の星景写真を見開きで掲載し、そこに大きく「Q: 星はなんでキラキラしているの?」「A: 地球の大気の影響です」という、素朴な質問と答えを載せる。ページをめくると、その仕組みや関連する話題が簡単な図を交えながら説明されている。専門用語を使わずに、シーイングについてざっくりと紹介するテクニックは見事だ。さらに「なぜ星は『☆』と描く?」とったコラムも添えられて、天文雑学まで学べる。ライトな天文ファンや子供が読んで知識を得るだけでなく、天文上級者が初心者に説明するときの「魅力的な話題の振り方」の参考にもなりそう。

次も「世界で一番美しい」というサブタイトルがついた、ビジュアルブックの『オーロラ』 。カラフルで複雑な姿のオーロラ写真を紹介しながら、その仕組みを簡単に解説する。フィールド活動に強い出版社らしい「いつ・どこで・どのように見て・記録するか」という実践的な内容も盛り込まれ、実際に観測したい人にぴったり。それだけでなく、「神話と迷信」「芸術と音楽」なども取り上げて、科学と文化の両面からオーロラの魅力を伝えている。

一方、研究者の立場からとらえたのが『オーロラ!』 。「コンピュータ・シミュレーションによって50年の常識が覆されつつある」というオーロラの発電(発生の仕組み)について、著者は「オーロラに詳しい読者ほど驚かれることでしょう」と述べている。また、近年の動画記録技術の向上は素晴らしく、以前なら簡単には写らなかった淡いオーロラの速い動きもとらえられるようになった。速すぎるオーロラ(フリッカリングオーロラ)が「薄い電流シート」の謎を解く鍵になったり、脈動オーロラなど淡く広がった光(ディフューズオーロラ)の原因が「すでに磁気圏に捕らえられていた速い電子が乱れて落っこちてくる」ことにあるのがわかったりと、テクノロジーの向上によってオーロラ研究もどんどん進化しているようすがよくわかる。

技術進化は写真撮影においてもいえることで、多くのアマチュア天文家が気軽に天体写真を撮れるようになった。しかも「きれいに写った」と楽しむだけでなく、撮影画像を解析すれば天体の大きさや動きの比較など、さまざまな測定ができるのだ。『あなたもできるデジカメ天文学 ―“マカリ”パーフェクト・マニュアル』 は、そんな撮影テクニックを具体的に図解で教えてくれる。国立天文台が天文教育普及のために無償提供している、天体画像解析ソフト「マカリ」のマニュアルも掲載。今まで鑑賞するだけだったあなたの天体写真も、天文講座や観望会の資料などとして活用の幅が広がるかもしれない。

「人はどうやって宇宙の謎に迫ってきたのか」、それは人類の宇宙への挑戦の歴史でもある。『太陽系探査の歴史』 では、知的探究の拡大と技術開発の発展を、子供向けにわかりやすく解説している。読者の中から、将来の宇宙開発技術者が生まれるかも。

そして、宇宙への探究に邁進する科学者であり、昨年ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章氏の最新刊で初の単著が『ニュートリノで探る宇宙と素粒子』 だ。物理学では「理論」と「実験」が研究の両輪をなすが、同受賞者である小柴昌俊氏同様に彼は実験を専門にしてきた。ニュートリノの入門書であるだけでなく、最先端の研究現場がダイレクトに伝わるドキュメンタリーとしても読める。

(紹介:原智子)