この3月に福岡で、日本天文学会主催の公開講演会「アニメ×SF×天文学」が開かれた(詳細は『星ナビ』6月号)。このとき講師のひとりとして登壇した漫画家・竹宮惠子さんの作品などを紹介する『少女マンガの宇宙』が発売された。表紙イラスト(萩尾望都『週刊少女コミック夏の増刊号フラワーコミック』1973年)を見ただけでそそられる人も多いと思うが、ページをめくるとほかにも青池保子、木原敏江、山岸凉子、大島弓子の絵が次々に登場し、いっぺんに1970〜80年代に引き込まれる。萩尾の傑作SF短編『ユニコーンの夢』をA5サイズで初収録。さらに、同時期に描かれたハヤカワ文庫の貴重なカバーイラストもカラーで掲載されている。また、百花繚乱の少女マンガ雑誌『別冊マーガレット』『りぼん』『花とゆめ』等に掲載された代表的SF作品をひもときながら表紙と作画を紹介。それらを夢中になって読んだ私は、当時にタイムスリップしたようにすっかり心奪われ懐かしさに浸った。総点数300点を超える図版が当時のSFマンガの隆盛ぶりを伝えるが、実はそのころの漫画家は編集者から「SFやファンタジーを描いてはいけないよ 読者にウケないからね」と言われていたそうだ。それを知ったうえで前述の作家5人による解説を読むと、あらためて漫画家たちがさまざまな努力を重ねて魅力的な作品を生み出してきたことわかる。彼女たちによって花開いたSFマンガは、少女に夢を与えただけでなく、宇宙への好奇心も大いに刺激してくれた。その役割は、単なる子どもの娯楽だけではなく、天文学への入口になった人も多いはずだ。
それは小説でもいえるのではないだろうか。火星三部作の最終刊として待望された『ブルー・マーズ〈上〉〈下〉』が、ようやく翻訳発刊され完結した。『レッド・マーズ』(1998年刊)『グリーン・マーズ』(2001年刊)に続く壮大な大河小説で、火星SFの金字塔ともいわれている。21世紀から23世紀の火星入植計画を描いているが、現実の科学的知見に基づきリアリティのある表現がされている。赤い荒野が緑の大地になり青い水をたたえる惑星になるまで、入植者がどのように水とエネルギーを確保し、生きる環境を整えるか。実際の宇宙開発でも通用するテーマだ。もちろん小説として、火星と地球の間で起こる政治的で人間味あふれるドラマも見逃せない。
このようにSF作品は、フィクションだからこその大胆な発想や展開が楽しいが、それもストーリーに科学的ベースがあってこそ感情移入できるのだ。この春に文庫化された天体物理学者の科学エッセー『ブラックホールで死んでみる〈上〉〈下〉』によると、映画『コンタクト』でヒロインの物理学者が語るセリフに数学的な間違いがあり、それによって大切なシーンが台無しになっているという。最近、日本で公開され大ヒットしたアニメ映画でも、天文ファンとしてしっくりこない映像があり、それが物語にとって重要な要素であるからこそ気になってしまった。本当に楽しめるSFやファンタジーは、物語世界の設定を科学的根拠が支えてこそ、登場人物がいきいきと表現されるのでは、と私は思う。
最後に紹介するのは、宇宙飛行士の衣食住を細かく教える『宇宙飛行士はどんな夢をみるか?』。宇宙医学研究者らが第1部で「宇宙船生活の現状」を、第2部で「宇宙飛行士の心理と行動」をつづる。近年は民間企業による一般人の宇宙旅行計画が進む一方で、将来の有人宇宙開発について国際的議論も行われている。その意義と課題を考えるときの参考にもなりそうだ。また、多くのSF作品のモチーフにもなっている「宇宙を目指す地球人」について、実際はどんな様子なのかこの本で考察してみるのも面白いかも。
(紹介:原智子)