Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2017年8月号掲載
宇宙から届けられた生命と光

『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』はゴーギャンがタヒチで描いた名作だが、これは芸術家だけでなく人間にとって永遠のテーマなのだろう。古い経典において天地創造は「(それぞれの)神」であり、古代の哲学者は「自然発生」したと説き、19世紀になって細菌学者が実証科学で「生命は生命からのみ生まれる」と証明した。そうなると次は、「最初の生命はどこから来たのか」と誰もが考える。『彗星パンスペルミア』 は、地球上の生命は彗星に由来する隕石によってもたらされたとするパンスペルミア説を唱える本である。パンスペルミアとは「あらゆるところに存在する種子」という意味で、古代ギリシアの天文学者で数学者・サモスのアリスタルコスが初めて提唱した。しかし、彼の太陽中心説(地動説)が長らく認められなかったように、「宇宙に生命の種子がある」という考えは1700年も忘れ去られていた。たしかに、地上より先に宇宙で生命が誕生したのなら、どうやって地球にやってきたのかが問題だ。その答えは19世紀になってようやく、ウイリアム・トムソン(ケルヴィン卿)が隕石説のアイディアを述べたことで、基本的な考えが確立した。この本では、著者のチャンドラ・ウィックラマシンゲ氏と故フレッド・ホイル氏が展開してきた「地球に飛来する彗星の破片や隕石の中に存在する生命痕跡」、あるいは「宇宙からのウイルス飛来」などのアイデアを、あらゆる角度からじっくりと解説している。原書が発行された2014年の段階で、この説はさまざまな事実によって支持される方向に向かっているという。実際に、翌年から日本の共同チームも検証実験(たんぽぽ計画)を始めている。今後さらに関心が高まる分野だろう。

このように宇宙と地球をつなぐ存在である隕石について書かれたのが、その名もズバリ『隕石』 だ。パリ国立自然史博物館教授のマテュー・グネル氏が2009年に出した本の全訳で、隕石の歴史から最新研究までを網羅している。隕石の組成など科学的な情報と、「天から降ってきた石」を収集し分類する博物学が、読みやすく紹介されている。専門的に学びたい人はもちろん、初心者も面白く読み進められる。それは今も昔も、私たちが“宇宙からの来訪者”に好奇心や畏怖を感じるからなのかもしれない。奇遇にも日本には、「直方隕石」などの落下が目撃された古い隕石や、南極で採取された多数の隕石コレクションがある。本誌5月号でも岡部隕石について、発見者と目撃者を取材した記事を掲載した。その記事にも登場した国立科学博物館の米田成一氏が、同書の監修を務めている。

さて、後半は「宇宙から届く光」を撮影するためのハウツー本を3冊紹介しよう。まずは『天体写真の教科書』 。天体写真を撮るための基本手順を、写真解説で教えてくれるテキスト。カメラや三脚の選び方から、天体(月・星・太陽)による具体的な撮影方法まで丁寧に教えてくれるので、スナップ写真しか撮ったことがない人でも挑戦しやすい。

そして、対象を月に絞ったのが『月のある風景の撮り方』 。タイトルに“風景”という言葉が付いているように、単なる天体写真ではなく、人間の営みの中に存在する月をさまざまな見せ方で撮影している。掲載作品のデータやアングルを参考にして、自分ならどんな景色にどんな月を写そうか考えながら読むと参考になるだろう。

同じく、天体をドラマチックな写真に収める方法を教えてくれるのが『星と月の撮り方入門』 。「初めてでもカンタン・キレイ」という副題どおり、大事なポイントに絞って解説している。「夏休みに親子で流れ星を見に行く」とか「8月のアメリカ皆既日食に遠征する」という人は、これらのガイドブックを参考にして、天体写真の撮影にチャレンジしてはいかが。

(紹介:原智子)