今年9月、日本はチリとの国交樹立120周年を迎える(1897年に日チリ修好通商航海条約を締結)。そんなチリのアタカマ砂漠にある「アルマ望遠鏡」(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array=アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)は、6年前の9月に初期科学観測を始めた。アンデス山脈の標高約5,000mという高地に、66台の高精度パラボラアンテナが設置され、巨大な一つの電波望遠鏡として日夜観測が行われている。その開発と建設にまつわるプロジェクトのドキュメントが『スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち』だ。30年前の冬、後のアルマ望遠鏡につながる電波観測構想が、国立天文台野辺山宇宙電波観測所で開かれた懇談会のテーマにあがった。それは同所でアンテナ5台による干渉計観測が始まった翌年(1987年)のことで、当時はアメリカと互いに計画を牽制し合う状況だった。やがてそれは、日米欧の電波天文学者たちが協力する国際共同プロジェクトに発展していく。もちろんすべてがスムーズに進行したわけではなく、あやうく日本が計画から外されかねない危機もあった。巨大なプロジェクトには巨大な資金力も必要だが、「モノづくり」という高い技術力も必要だ。この本では、電波天文学の研究者、町工場の技術者、建設の核になるメーカーなど、アルマ計画実現のために重ねられた様々な努力がつづられている。ちなみに、アルマ(ALMA)には、スペイン語で「魂」「精神」「心」「芯」「中心」などの意味があるという。まさに、多くの国(日本・台湾・韓国の東アジア、アメリカとカナダからなる北米、欧州南天天文台を構成する16か国)の多くの“創造者たち”の魂が込められている。
こうしてようやく完成したアルマ望遠鏡は、すでに多くの研究成果を生んでいる。『スーパー望遠鏡「アルマ」が見た宇宙』は、これまでにアルマ望遠鏡で観測された研究結果をまとめた一冊。序章から第4章までの計5章で、「装置と運用などの概要」「宇宙と銀河の誕生」「巨大星の誕生」「原始惑星系円盤」「物質の進化」について、それぞれの専門家が執筆している。これらの研究結果から導かれるのは、「人類の起源」ともいえる生命誕生のヒントである。そう考えると、巨大なアルマ望遠鏡が見つめているのは、私たち生命の根源だといえるかも。
そして、日本が独自に運用している巨大望遠鏡にもアルマ望遠鏡に負けない活躍をしているものがたくさんある。なんといっても、みなさんもご存知「すばる望遠鏡」で、こちらもファーストライト以来多くの研究成果をあげてきた。『銀河宇宙観測の最前線』は、すばる望遠鏡による観測を報告しながら、観測的宇宙論の研究現場の熱気を伝える本。著者は、ハッブル宇宙望遠鏡の基幹プログラムである「宇宙進化サーベイ(通称コスモス・プロジェクト)」に参加し、宇宙の進化や銀河の進化について研究している。同本は、このプロジェクトの報告記として日本天文学会の学会誌『天文月報』に掲載された「コスモスな日々」を下敷きに、その後の発展も含めてまとめたものである。天文学の基礎知識を学びつつ、天文学の研究現場の雰囲気も知ることができる。
『超巨大ブラックホールに迫る』は、直径8mのアンテナをもつ電波天文衛星「はるか」が地上の電波望遠鏡と結んで行ったスペースVLBI観測(VSOP計画)について、わかりやすく教える児童書。計画期も含め20年にわたる観測の歴史と成果が、簡潔明瞭にまとめられている。そこには、著者の「はるか」に対する深い親しみも感じる。
(紹介:原智子)