Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2017年11月号掲載
宇宙について語られたさまざまなメッセージ

今回は、長い宇宙の歴史の中からさまざまな時代に、さまざまな立場の人によって届けられた“メッセージ”を感じる本を紹介する。1冊目のメッセージは言葉ではなく、スケッチ(絵)だ。『物理2600年の歴史を変えた51のスケッチ』 は、いろいろな物理現象を絵や図で説明した解説本である。物理現象の重要な要素を取り出してスケッチにしたものは「略画」と呼ばれ、実際に研究現場で有効な手段として使われるそうだ。原書『Drawing Physics』の表紙は、紙ナプキンに書かれた自然落下のスケッチで、そのように研究者が自分の思いついたアイデアを手元の紙に書くことはあるらしい。「できのいいスケッチは、優れた警句に似ている」ともいわれる。この本では、紀元前600年のタレスの「三角測量」から2012年の「ヒッグス粒子」まで解説するだけでなく、それにまつわる人間や歴史のドラマを含めて伝えている。

『古代文明に刻まれた宇宙』 は、天文考古学について正しく理解するための基礎的知識を教えてくれる教科書。世界中にあるさまざまな遺跡について天文学的に理解するために、その歴史背景から詳しく紹介している。この本の役割のひとつは「真面目な天文考古学の研究と似非(えせ)天文考古学を区別するために必要な道具を与えること」だという。

次の2冊は、過去に出版された書籍を再発行したもの。『歴史のなかの天文』 は1995年に刊行された『宇宙からのメッセージ〜歴史のなかの天文こぼれ話〜』を改題修正し復刊したもの。“古天文学”を提唱した著者が、歴史的事件と天文の関係をつまびらかにしていく。

『星界の報告』 はみなさんご存知の、ガリレオ・ガリレイが1610年に発行した大著。今回、初版に基づく新訳が出版された。有名な月面図や、メディチ星(木星の衛星)などを、この機会に見直してはいかが。

最後の2冊は、近現代の宇宙開発に関わる人たちからのメッセージ。『ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち』 は人種隔離政策時代のアメリカで、コンピューターと呼ばれた黒人女性たちが計算で宇宙開発を支えた事実を伝えるノンフィクション。映画『ドリーム』の原作本で、本誌9ページでも紹介しているとおり、原著のタイトル『Hidden Figures』には「隠された 技術者・数字」というダブルミーニングが込められている。さらに著者によると、Hiddenよりもunseen(見いだされなかった)という方がふさわしいそうだ。

大西卓哉宇宙飛行士が訓練や宇宙飛行の様子をブログで伝えた『秒速8キロメートルの宇宙から』 は、グーグルのSNS「Google+」に投稿された日記の書籍化で、「訓練編」は2015年1月から打ち上げ直前の翌年7月6日まで、「宇宙編」は打ち上げ当日の7月7日から10月30日に帰還するまでがつづられている。これまでも宇宙飛行士の体験記はさまざま出版されてきたが、「ショボーン」としたり「アセ」ったりする様子がこれほどリアルに伝わるものはなかっただろう。宇宙飛行士が憧れの存在というより、私たちの代表者だと感じる。

(紹介:原智子)