今号から、マックス・プランク宇宙物理学研究所所長の小松英一郎氏による連載記事が掲載されている。彼は、宇宙マイクロ波背景放射観測衛星WMAPプロジェクトの主要メンバーを務めるなど、最新宇宙論のエースとして活躍している。今回の「ほんナビ」では、小松氏の記事を理解する助けとなりそうな近刊本を集めてみた。この機会に、最新の宇宙論に関するキーワードをあらためて学ぼう。
日本天文学会創立100周年記念出版事業として2006年に出版された「シリーズ 現代の天文学」が、2017年から第2版の配本を始め、3月に『人類の住む宇宙』を、7月に『天体の位置と運動』を、11月に『宇宙の観測 I』を刊行した。『人類の住む宇宙』はシリーズの入門的な役割を果たすとともに、天文学を「宇宙−地球−人間」という観点から俯瞰する科学として紹介している。とくに、この10年間で飛躍的に進展した太陽系外惑星について詳述。また、「はやぶさ」など多くの探査機や、「アルマ望遠鏡」などの超大型望遠鏡による観測から導かれた研究成果も盛り込まれている。『天体の位置と運動』は、国際天文学連合総会で大幅に改定された「天体の位置と運動に関する取り決め」に基づき、第2章の「天体の位置表現」が大改訂された。第1章の「天体位置の測定」にも、新しい時間測定技術に関する知識が補足された。
新天文学ライブラリーのシリーズからは、第4巻『超新星』が配本された。著者が大学で行っている重力崩壊型超新星に関する講義をまとめたもので、大学院生向けの物理教科書である。大質量星の重力崩壊・超新星爆発・中性子星形成について網羅し、具体的な数式の変形をたどりながら解説している。なお、同シリーズの続刊には、小松氏が担当する『宇宙マイクロ波背景輻射』も予定されている。
さて、高度な知識をあつかった専門書を紹介してきたが、『図解 ヤバすぎるほど面白い 物理の話』は一般的な物理学について、Q&Aスタイルで説明していく初心者向き解説書だ。家電・技術・スポーツ・宇宙・SFという5つのテーマを切り口にして、身近なモチーフを用いた疑問に答えながら物理の基礎を教えてくれる。「月にジェットコースターを作ったらどうなる?」「人工衛星で皆既日食をつくれる?」など壮大な仮定から、「となり町まで届くリモコンはつくれる?」など生活感ある疑問まで、楽しく読み進めながら物理に親しむことができる。
『宇宙を見た人たち』は、星ナビで2014年6月号から2016年4月号まで連載していた「天文学の20世紀 近代天文学の開拓者たち」を元にした伝記集。各人物の生い立ちや人柄を交えながら研究成果を紹介しており、それぞれどんな環境と経過を経て重要な結果を導き出したのかを知ることができる。アインシュタインやガモフなど20世紀の研究者29人について掲載し、日本人は林忠四郎・早川幸男・小田稔の3人が紹介されている。現代天文学史を知るだけでなく、各人物の研究にまつわる逸話や後日談などの「解説」欄も興味深い。
『ブラックホールをのぞいてみたら』は、ブラックホール研究の第一人者である著者が、現在「わかっていること」「解明されていないこと」についてまとめたもの。近年「重力波の初検出」「天の川銀河の中心にある大質量ブラックホールの観測」など歴史的ニュースが続くなか、もっともホットな分野であるブラックホールについて、素人でもイメージしやすいように概要を紹介している。
ここまでは、私たちがいる“この宇宙(ユニバース)”の宇宙論について語ってきたが、『マルチバース宇宙論入門』では物理法則も次元数も異なる“宇宙たち”をあつかっている。ひと昔前は“哲学”と揶揄されたこの学問は、超弦理論やインフレーション理論など最新の理論物理学の進展から自然な帰結として導き出されたという。発展途上の学問だからこそ、興奮するものがある。
(紹介:原智子)