満天の星を見上げたときに「プラネタリウムみたい!」という人がいる。本来なら、プラネタリウムを見て「本物の星空みたい」と言いたいところだが、現在の日本では光害が広がり日常生活の中で満天の星に出会えるところは少ない。そのうえ昨今のプラネタリウム投映機は高性能で、天の川の微光星まで見事に再現されている。だから「(見たことのある)プラネタリウムの星空みたい」となるのだろう。そんなプラネタリウムで60年以上も解説を続けている河原郁夫さんの天文人生を紹介したのが『ぷらべん』。ぷらべん、つまり“プラ”ネタリウム“弁”士を自称する河原さんは、戦後プラネタリウムの草分けである「五島プラネタリウム(渋谷)」に創設から関わり、当時10人しかいなかった解説員の一人で、米寿になった今も現役で活躍している。「プラネタリウム解説にこれが正解というものはない。むしろ自分の話し方を前面に出したらいい」「天文知識の普及も大事だけどさ、観客を夢中にさせる弁士みたいな番組にしたいな」それが“ぷらべん”なのだ。そんな河原さんの温かな語りを感じさせる天文情報「季節の話題」も収録されている。満天の星を「プラネタリウムみたい」と感じている人はもしかしたら、全国各地で星空の美しさを伝え続ける「ぷらべん」の後輩たちから受けとった感動を思い出しているのかもしれない。
『星空を届けたい』も、星と人をつなぐ高橋真理子さんの仕事を紹介するノンフィクション。病院や被災地などへ出張して「星空」という感動を届ける彼女のこれまでの活動がつづられている。プラネタリウム解説員として番組を制作し、宇宙連詩山梨版である『星つむぎの歌』を主導し、ワークショップ「星の語り部」を企画。そこから目の不自由な人や、小児病棟の子供と患者を支える人たちのもとに、様々な工夫をして星空体験を届ける。大きな文字にルビがふられているので、小学生でも読める。この本を入院中の子どもが読んだとき、「星空をいっぱい見られるように元気になろう。自分も将来、好きな仕事を見つけて活動したい」と思うかもしれない。
プラネタリウムで星の話を聞いたら、やっぱり自分の目で天体を見たいと思う。そんなときに便利なのが『全国公開天文台ガイド』。公開天文台とは「だれもが気軽に出かけて、天体望遠鏡とスタッフを通じて天体や宇宙の事にふれあえる場所」で、全国に400以上ある。そのなかから174施設を掲載している。宿泊施設やキャンプ場を併設しているところもあるから、泊まってゆっくり星見を楽しむこともできる。
最後に、ユニークな本を2冊。『せつない星座図鑑』と『せつない夜空のはなし』は、どちらも“残念なエピソード”で星座と夜空を紹介する斬新な解説書。たしかに、ゼウスのナンパとか、かに座の瞬殺とか、やぎ座の中途半端さとか、今までも「どうなのよ」と思っていたが、あらためてイラストとともにツッコまれると「やっぱ、笑えるっ」と思っちゃう。でも、天文初心者(あるいは、まったく天文に興味がない人)には、このくらい大胆な入口の方が入りやすくていい。「秋の星座の神話」なんていうとロマンチックかもしれないが、現代風に言ったら「セレブママの娘自慢に苦情が相次ぎ、パパの対応が後手後手で大炎上」といったところか。でも、そう説明した方が「なにそれーおもしろい」と興味をひく。そもそも「宇宙の95%は正体不明」ということから“せつない宇宙”であり、だからこそ“知りたい宇宙”なのだ。
(紹介:原智子)