徐々に日暮れが早くなり、「灯火親しむ秋」である。天文ファンだったらさしずめ、「星下親しむ秋」(筆者の造語)とでも言いたい季節だ。夕暮れから暁までたっぷり、望遠鏡で星を追いかけたり、カメラで撮影を楽しんだりできる。そんな秋の夜長だが、もしもあいにくの曇りや雨のときは天文書籍で勉強するのはいかがだろうか。
『極・宇宙を解く』は、現代天文学の基礎から最先端まで大学レベルの問題を学ぶ演習テキスト。1988年に初期版の『宇宙を解く』が出版されると、1993年に大幅改訂を行い名称も『新・宇宙を解く』に改まった。さらに2014年『超・宇宙を解く』になり、2020年に出たのが同書だ。「極」とは“きわめる”“やりつくす”という意味があり、今版は演習書として“きわめた”という思いを込めて付けたそうだ。その言葉通り、新たな執筆陣を迎え構成を見直し、10の新節を加えて最新データが盛り込まれた。数多くの図と写真が掲載され、便利な諸表を駆使しながら様々な天体現象の解析を学ぶことができる。毎年秋に行われる「天文宇宙検定」の1級公式参考書にも指定されている。
『宇宙の観測II[第2版]』は、本年2月号当コーナーでも紹介した「シリーズ現代の天文学」の『宇宙の観測I』(2017年)と『宇宙の観測III』(2019年)に続くもので、電波天文学を扱っている。第1版が出たのは2009年で、この10年の間にアルマ望遠鏡が観測を始め、VLBI電波望遠鏡群による大質量ブラックホールの影の撮影にも成功した。一方で、運用を停止した電波望遠鏡や中止になった計画もある。それにしたがい、第1章の「電波天文学の誕生と発展」を改訂、第2章の「電波天文学の基礎」に観測地や項目が追加された。第5章の「受信機」も著しく発展したものと姿を消したものがあり改訂された。まさに、観測とそれにともなう研究成果の激変ぶりを感じる第2版で、「電波天文学」の最先端がわかる。
ここまでハイレベルな教科書を紹介してきたが、次の2冊は読み物なので中高生や天文初心者でも気軽に手にとって楽しめるだろう。『怖くて眠れなくなる天文学』は著者が4年前に出した『面白くて眠れなくなる天文学』と同じシリーズ。前作よりさらに好奇心をかき立てる内容で、それを「怖くて眠れなくなる」ような切り口で紹介している。そもそも人間にとって宇宙は、恐れるものだったという。たしかに、無限の広さや尽きない謎を秘めた宇宙に対して私たちは畏怖をいだくが、それを科学的に解説してくれる同書はまさに“眠れなくなる”ほどのスリリングさだ。
『銀河の片隅で科学夜話』は、量子力学、数理物理学、社会物理学を専門にする著者による科学エッセイ。「科学の中にある“詩情”を数式を解さない文系の人に伝えたい」として著された。理系の人にとっても新発見できる知識の詰まった「宇宙」「原子」「数理社会」「倫理」「生命」の話が語られている。
世界各地の星の伝承を集めた百科事典『星の文化史事典 増補新版』は、2012年に刊行された同名書籍の改訂版。当時、約1700項目収録というボリュームと丁寧に調べたパワーに圧倒された覚えがある。今回は新しく300項目追加し、既存項目も7割ほど書き直したという。世界中のあらゆる時代の人々が生み出した、天にまつわる信仰・民族・伝統・芸術が詰まっている本。
(紹介:原智子)