あなたが宇宙や天文に興味をもったきっかけは、何だったか。図鑑に載った神秘的な天体写真にひかれたから?星座や惑星に詳しい人から教わったから?筆者は、中学生のとき富士山頂から見た満天の星に驚嘆したことと、長野県のラジオ番組で話す木内鶴彦さんの言葉に誘われて1993年のペルセウス座流星群を見たこと。「望遠鏡がなくても、物理が得意じゃなくても、生活のなかで星空を楽しめばいい」という暮らしを始めたら、手を貸してくれる人が増えた。その中から伴侶を得たのだから“天文によって人生が変わった”といえる。
『小さなことにあくせくしなくなる天文学講座』の副題は「生き方が変わる壮大な宇宙の話」。コロナ禍を生きる私たちに“不要不急の宇宙(銀河)の営み”を紹介しようとこの春、出版された。まず、ステイホームしながら星空を眺めるという宇宙への扉を開き、しだいに「銀河の家・引っ越し・食事・結婚」という身近な言葉で解説していく。宇宙(銀河)の歴史や振る舞いがどれほどゆったりしていて広大であるか知ると、たしかに「小さなことにあくせくしなくなる」。
『人生が変わる宇宙講座』は、当コーナー(2018年11月号)で紹介した単行本『忙しすぎる人のための宇宙講座』を改題・文庫化し昨年11月に発刊したもの。『コスモス』後継番組で司会を務めた天体物理学者の科学エッセーは、いつでもどこでも読める文庫にぴったり。原著が2007年までの連載だから最新情報でない部分もあるが、それでも巧みな話術による宇宙講座はきっと読み手の人生を変える。
天文学者にとって一つずつの観測結果や計算結果は、“人生をかける”想いで取り組んだ証しであろう。そんな研究現場を伝える『天体観測に魅せられた人たち』は、若手女性天文学者が自身の経験や同業者へのインタビューで得たエピソードを綴った読み物。高山・砂漠・離島など世界各地に、様々なタイプの観測施設がある。まさに日進月歩で進化する技術や機材を駆使して研究する科学者の姿は、その苦労も失敗も含めてドラマチックだ。
日本にもドラマチックなエピソードを秘めた天文台はある。『星をみつめて』は、日本で2番目に古く「アマチュア天文学の聖地」と呼ばれる京都大学花山天文台が閉鎖の危機に瀕したとき、存続運動の一環として京都新聞に1年間毎日連載されたコラムをまとめた書籍。京都らしい歴史的な天文情報や、運動に賛同した文化人たちの寄稿など、多彩な話題が詰まっている。そのトップが、「クイーン」のギタリストで天体物理学者のブライアン・メイ氏の訪問だ。天文台は多くの人を育て、そして多くの人によって天文台は愛されている。
病院は、人生の詰まった場所である。そんな環境で日々を過ごす患者や家族に、プラネタリウムを届ける活動で出会ったシーンを綴ったのが『すべての人に星空を』。著者は「星を見上げることは、境界線をとりのぞくこと、共に生きる社会をつくること」とメッセージを寄せる。彼女の届けた星によって励まされた患者や家族は多いと思うが、彼女自身も同じように励まされていると感じた。
『星の旅人』は石垣島天文台所長を務めた著者が、地元新聞のコラムなどに掲載した記事をまとめた随筆集。当地での天文暮らしが詰まっているとともに、沖縄の文化や魅力も伝わってくる。病院にも沖縄にも、見上げた場所にその人の星がある。
(紹介:原智子)