ここ数年「さば缶」の人気が上昇中だが、筆者の出身地である長野県では昔から馴染み深い食材で、ツナ缶よりも多く食卓にのぼった。さば缶は当然ながら長野県で造られるものではなく、海の近くで製造される。福井県小浜は京都へ鯖などの海産物を運ぶ「鯖街道」の入口に位置し、さば缶の製造も盛んである。そんな小浜の高校生たちによって造られたさば缶が宇宙日本食に認定され、実際に野口聡一宇宙飛行士がISSで食べておいしさを発信した。『さばの缶づめ、宇宙へいく』は、高校生を指導した教諭と福井県出身ライターがまとめたノンフィクション。単なる高校生たちの青春物語ではなく、1つのプロジェクトを完成させるまでの道程とそれを支える人たちとの総合力が綴られている。もしかしたら、彼らは何かほかの企画でも目標を達成できたかもしれないが、「自分たちの造る食品が“宇宙”に行き“宇宙飛行士”に食べてもらえる」というのは活動を持続する大きなエネルギーになったと思う。
そのさば缶を食べた野口宇宙飛行士が、自身の思考と活動を紹介する本が『宇宙飛行士 野口聡一の全仕事術』。野口さんは2020年11月に初の民間宇宙船「クルードラゴン」に搭乗し、ISSで約半年間のミッションを「全集中」で遂行した。これまでにも宇宙飛行士の活動を紹介する本は様々あるが、野口さんはスペースシャトルとソユーズにも搭乗している。民間機による宇宙旅行など一般人にも新しい扉が開かれた“新宇宙時代”の現代、激変する環境にどのように対応していくか、コロナ禍の今こそ役立つ指針が書かれている。
野口さんは「3つの異なる方法で帰還した最初の宇宙飛行士」というギネス記録を持っているが、人類が初めて地球以外の天体に立ったのは月であり、いまだそれだけだ。人類にとって月は「地球のかたわれ」のような存在で、常に関わり続けてきた特別な天体である。そんな月と人類の関係についてNASAの宇宙生物学者が説明するのが『月と人の歴史と物語』だ。月が形成された45億年前から2044年の未来まで、人類の憧れや挑戦が詰まっている。
人類の挑戦の一つに、1977年に行われた惑星探査機「ボイジャー1号・2号」の打ち上げがある。『星間空間の時代』は、太陽圏を離脱して星間空間へ旅立った同探査機の長い歴史とチームメンバーの半世紀を描いた科学ノンフィクション。ボイジャーが届けてくれた木星や土星の接近写真は、我々に宇宙への魅力と感動を与えてくれた。航海者という名を冠した探査機は今も、画期的な贈り物(レコード)を積んで、新大陸に暮らす者(知的生命体)を発見しようと広い海原を旅している。
さて、次に紹介する書籍のタイトルである『三体問題』とは「宇宙に浮かぶ3つの天体の運動」のことで、昔から多くの科学者が取り組んだが、今では(特殊な条件下でしか)解けないことが知られている力学の問題だ。中国のSF『三体』のブームにより、にわかに多くの人の目に触れるようになった言葉だが、あらためてこの問題について「なぜ解けないのか」を紹介する本。
三体問題に取り組んだ科学者は多いが、天文学を研究してきたのは男性だけではない。『女性と天文学』は男性優位とされた学術環境でも、たゆまぬ努力と研究によって大きな功績を残した女性天文学者たちにスポットを当てた伝記。「スペクトル分類の確立」や「パルサーの発見」など、世界の女性科学者が導き出した成果は大きい。日本語版には、原著にはない日本の女性天文学者の功績も追加されている。
(紹介:原智子)