多くの『星ナビ』読者にとって夜空を見上げることや宇宙関連ニュースにふれることは特別ではなく、日常の楽しみだったり安らぎだったり、人によっては生きがいだったりするだろう。しかし、一般の人にとっては「昼間の天気は気になるが、夜空はあまり気にとめない」ことが多く、ましてや「宇宙のことなど忙しい毎日にとって関係ない」と思うかもしれない。しかし古来、“闇”や“月明かり”や“宇宙観”は、外敵から身を守る重要事項だったり神秘的な崇拝対象だったりと人類にとって関わりが深かったはずだ。今回は「宇宙と人間の関わり」をテーマに本を見ていこう。
『宇宙の研究開発利用の歴史』は日本と諸外国の宇宙政策や宇宙計画史について、国家政策・法律・科学技術・産業という観点から検証した論文をまとめた書籍。その狙いは、宇宙の歴史研究の全体像を提示することにある。専門性の高い内容で宇宙開発事業関係者や学術的関心の高い学生向けだが、民間宇宙ビジネスが本格化し、国際的パワーバランスが変化する現代こそ、知識を整理して学ぶ良い機会だ。
『太陽の支配』の副題は「神の追放、ゆがむ磁場からうつ病まで」。一見やや宗教がかった内容かと思いきや、立派な自然科学書である。著者はNASAで任務に就いたこともあるイギリスを代表する科学ライター。過去に当コーナーでも紹介した『月の科学と人間の歴史』を著している。今回は太陽について誕生から消滅まで、神話・民俗信仰・暦・観測の歴史・人体への影響・太陽の組成や活動・フレアの威力などを多角的に解説する。そのすべてが「太陽が人類をどう支配してきたか」という視点によって書かれ、「太陽を理解することが宇宙と地球と生命と人類の理解に不可欠だ」とわかる。
『はやぶさと日本人』は毎日新聞の記者が、取材から始まり最後はチームの一員のように応援しながら見届けた全記録。周知のように「はやぶさ」は日本中を熱狂させたが、本来はミスなく粛々と任務を完了させるのがプロジェクトの成功だ。だからこそ「はやぶさ2」では、高度な挑戦をパーフェクトにやり遂げた“チームの実力”に感動した。2020年12月にカプセルを地球に帰還させた「はやぶさ2」は、今も拡張ミッションを遂行中だ。「高い塔」を建てた、「一流」の人たちの物語。
次に紹介する『宇宙人と出会う前に読む本』は変わったタイトルだが、たしかに宇宙人に「あなたはどこから来ましたか?」と聞かれたら答えに困る。日本がどんな国か外国人に説明するためには他国を知る必要があるように、地球がどんな星か説明するためには他の天体のことを知らなくてはならない。“真の宇宙人”になるために「宇宙偏差値」を上げると、地球が“普通”ではないことがわかってくる。
最後は自然科学からちょっと離れて、小説と占星術本。『オオルリ流星群』は当コーナーでも紹介したことのある『月まで三キロ』の著者による長編書き下ろし。今回は、小望遠鏡を用いたエッジワース・カイパーベルト天体観測が登場する。微小天体も旧友とのつながりも見えにくいが、細部をひも解くことでわかることがある。そして、その糸口を見つけるためには巨大望遠鏡(大イベント)よりも身近な望遠鏡(日常)が役立つことも……。筆者にも大切な高校時代の友人グループがあるが、本作と同じようにやはり一人欠けてしまった。大人になったからこそ実感できる青春群像。
『はじめての恒星占い』は医学部博士課程を修了した精神科医(医療占星術師)と、天体観測も行う古典占星術師による異色の占星術本。天体(恒星)情報がかなり専門的で、こんな切り口で星を見るのも面白いかも。星占いから天文に興味を持ち、サイエンスとしてより深く学びたくなった人には『星ナビ』をおすすめしたい。
(紹介:原智子)