当誌の読者なら“自分の心に残る星空”を持っていると思う。それは、特別な天文現象だったり、大切な人と見上げた星空だったり、何かを決心して誓った夜空だったり。『流星群/大彗星』はそんな心に焼き付いた星空を、切り取って現したような写真集。著者は『月刊天文』(休刊中)で長年にわたり、流星の撮影法や観測地ガイドの執筆にあたった。流星群の写真というと、最近はデジタルカメラで撮影した複数枚を比較明合成し「1枚の写真にたくさんの流れ星」が写っている作品が多い。しかし、同書の写真には基本的に「フィルムカメラでとらえた1つの明るい流れ星」が写っている。フィルム写真ならではの色合いやざらついた画質から、撮影時の空気や写った感動が伝わる。個人的には「ほうおう座流星群」の写真に、中村純二氏と一緒にカナリア諸島で見た思い出が重なり感涙。
『おやすみ よいゆめを』も写真集だが、こちらは制作者の言葉を借りると“読み聞かせ本”。右ページに短い言葉が書かれ、左ページにシーンに合った天体写真が載っている。しかも、言葉は「ぼく」と「わたし」の2つの気持ちが書かれている。まるで絵本を読むように優しい気持ちにさせてくれるのは、言葉と写真を制作した二人が互いを慈しんでいるからだろう。
『鹿児島の星空ガイド』は、1998年に発刊された『星空』(春苑堂出版)を加筆・修正したもの。著者はこれまでに、輝北天球館館長、枕崎天文台台長、鹿児島大学非常勤講師を経てきた。その経験を生かした、枕崎・桜島などでの撮影テクニックや天体観測の情報が詰まっている。コラム「かごしま星物語」や「ロケットと人工天体」は、鹿児島ならではの魅力だ。
ここまで「(主に)写真が表現した印象的な星空」の本を紹介してきたが、ここからは「文学が表現する印象的な星空」の本を紹介しよう。『天文学者とめぐる宮沢賢治の宇宙』は、賢治マニアといえる天文学者3人がそれぞれの知識や視点から、作品に秘められた謎や信憑性について考察する読み物。天文好きの賢治ファンなら誰もが考えてしまう「賢治の文学的天文表現」については、これまでも様々な解説書が出版されてきた。当コーナーでも何度か紹介してきたが、今回は現役科学者による理系的検証が興味深い。評者も、ぼんやりとした賢治読書会に20年ほど参加しているが、この本によって賢治作品の奥深さをまた一つ学んだ。
次は、小説を2冊。『空をこえて七星のかなた』は、「小説すばる」に掲載された星にまつわる短編を加筆・修正した単行本。当コーナー2022年1月号で紹介した『短編宇宙』に収録された「南の十字に会いに行く」の著者が、同作品を含む7つの物語をつづっている。日常のささやかな出来事が重なって一人の人生が紡がれるように、7つの物語が重なったとき一編の感動が生まれる。
『ロシアの星』は、フランス人ジャーナリスト兼ノンフィクション作家による連作短編小説。人類初の宇宙飛行士となったユーリー・ガガーリンを軸にして、実在する人物と架空の人物を交錯させながら、様々な人生を描いていく。まるでバタフライ効果のように“ソ連の英雄”の存在が、多くの人に影響を与えるのは、たしかにあったことだろう。再び人類が月を目指そうとするこの時代に読むと、宇宙に関わる人たちの気持ちは変わらないのかもと思った。
(紹介:原智子)