063(2009年12月)
超新星2009mh in NGC 3839
2009年12月13日朝は、12月10日から続いていた雨模様の天候も回復し、空には晴間が戻ってきていました。その日の朝のことです。04時30分に山形の板垣公一氏から上尾の門田健一氏にメイルが送られています。そこには「こんばんは。中野さんには、あとで報告します。門田さん。NGC 3839に超新星状天体(PSN)です。観測して下さい。よろしくお願いします」という依頼が書かれてありました。『また、超新星を見つけたのか……』と思いながら、板垣氏からの発見報告を待つことにしました。板垣氏から報告が届いたのは06時02分のことです。そこには「栃木県高根沢町の観測所に来ています。30cm f/7.8反射望遠鏡+CCDを使用して、12月13日早朝、03時40分にしし座にあるNGC 3839を20秒露光で撮影した捜索画像上に16.6等の超新星状天体を発見しました。発見後、60秒露光で撮影した画像上にこの出現を確認しました。60分間の追跡で移動は見られません。極限等級は19.0等です。この超新星は、ここにある過去の捜索画像上、および、DSS(Digital Sky Survey)にも、その姿は見られません。ただ、山形で捜索しているかもしれません。なお、PSNは、銀河核から東に23"、南に10"離れた位置に出現しています」と報告されていました。氏の発見は、06時23分に中央局のダン(グリーン)に報告しました。06時40分になって、氏から「拝見しました。ありがとうございます。栃木のコードはD94でしたか。私は忘れていました。思い出せなかった。また調べることもできませんでした。そういえば自分のホームページに載せてあったのに……。ぼけが進行です。門田さん。遊佐さん。よろしくお願いします」というメイルが届きました。この日は、08時25分にオフィスを離れ、途中で所用を済ませ、08時50分に自宅に戻りました。空はよく晴れていました。
その日(12月13日)の夜は、南淡路まで買い物に出かけ、最後に洲本のジャスコによって、22時00分にオフィスに出向いてきました。すると、その日の朝、08時22分にCBET 2072が届いていました。そこには、先日見つけたLINEAR周期彗星(2009 U6)の過去の天体との同定が公表されていました(本誌2010年9月号参照)。また、門田氏からは、17時23分に「続けての発見、おめでとうございます(仮)。昨夜は、02時頃から曇天になり、早めに休んでいましたので、残念ながら確認作業はできませんでした。しかも、夜半前から風速5m以上の強い風がやまず、年に何日か遭遇する観測不能日でした。風速3mほどになると望遠鏡の揺れがひどくて観測が困難になります。PSNは、未確認天体ページに出ていましたので、あとは確認待ちですね。しかしながら、こちらの天候は下り坂で、今夜の観測は無理そうです」という連絡も届いていました。さらに板垣氏からは17時44分に「こんばんは。昨夜は、何かとありがとうございました。山形に戻り、そのまま山に来ました。直近のNGC 3839の捜索画像を調べましたが、捜索していませんでした。東の低空、そしてランクCの銀河のためです」というメイルもありました。
そして、19時48分には、大崎の遊佐徹氏から「板垣さんの超新星らしき天体について、米国ニューメキシコ・メイヒルにある25cm f/3.4反射望遠鏡を遠隔操作し、12月13日18時27分頃に撮影した6枚の極限等級18.6等の画像上にこの超新星の出現を確認しました。光度は16.7等でした。なお、DSS1にあたってみましたが、1952年1月31日(極限等級約19等)の画像には、当該天体は見られません」という報告が届いていました。氏の確認観測は22時45分にダンに送付しました。翌12月14日02時50分になって板垣氏から「こんばんは。拝見しました。ありがとうございます。遊佐さん。日本全土曇天です。遠隔観測はすばらしいですね。門田さん。昨夜の栃木は、とても不安定な天気でした。風も強く星が点になりませんでした。でも、幸運でした。みなさま。本当にありがとうございました」というお礼状が届きます。ダンは、05時52分到着のCBET 2074にこの発見を公表しました。遊佐氏からは、同日朝09時20分に「おはようございます。早朝のCBET 2074と先ほどの新天体発見情報No.152を拝見しました。板垣さん。SN 2009mhの発見おめでとうございます。中野さん。いつもありがとうございます。さっそく地元の報道関係者にも新天体発見情報を提供させていただきました。山形新聞・河北新報はいつも板垣さんの発見を取り上げてくれていますが、地元の多くの方々に板垣さんのすばらしい活躍を知っていただきたいと思っています。門田さん。仙台の彗星会議でご指導いただいたコンポジットは効果絶大ですね。今回は120秒露光の10フレームを目指しましたが、GRASのFTPが不安定でそのうち4枚が行方不明になってしまいました。今後ともよろしくお願いします」というメイルがありました。日本の悪天候でしたが、遊佐氏の協力があってこそスムーズに公表できた超新星でした。
それから、数日が過ぎた12月18日04時42分にドイツのマイク(メイヤー)から1通のメイルが届きます。そこには「1週間前に米国のハグが56cm反射望遠鏡を使用して、2009年12月11日に検出した231P/LINEAR-NEAT周期彗星について、公表された連結軌道からパロマーの1.2mオースチン・シュミットで1950年4月20日に1950年に撮影された2枚のPOSSプレート上にこの彗星の回帰イメージを見つけた」ことが伝えられていました。なお、このとき彗星は15.6等で、ほとんど恒星状であったとのことです。さっそく、1950年から2009年までに行われた144個の観測からその連結軌道を計算し、06時14分にマイクに『この同定が正しいこと』を連絡しました。ただし、1夜の2個の観測であったこと、最近の観測から遠く離れた同定であるためにこの同定は公表されませんでした。ただ、OAA/CSのEMESで、このことを仲間には伝えておきました。07時55分のことです。
超新星2009nk in NGC 5491
年の瀬が間近な2009年12月30日の朝は曇り空、寒い朝でした。この時期には『来年(2010年)は元旦が満月。例年のような発見ラッシュは起こらないだろう……』と思っていました。ところが、満月間近のこの日の朝、06時54分に板垣公一氏より携帯に電話があります。『また発見かな……』と思って電話に出ました。氏は「PSNを見つけました。数分前に送りました」と話します。メイル・フォルダーを見ると、氏の報告は06時52分に届いていました。そこには「60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、2009年12月30日早朝、05時45分頃に東天の低空、おとめ座にあるNGC 5491を15秒露光で撮影した捜索画像上に17.0等の超新星状天体を発見しました。このPSNは、過去の捜索画像上、およびDSSにもその姿は見られません。発見後、10枚以上の画像でこの出現を確認しました。極限等級は19.0等です。薄明までのわずかな時間ですが、20分間に移動は認められません。なお、PSNは、銀河核から東に20"、南に6"離れた位置に出現しています」という報告がありました。氏のこの発見は、07時09分にダンに送付しました。板垣氏からは07時18分に「あらためて、おはようございます。拝見しました。ありがとうございます。山形は、珍しく少し晴れました。門田さん、遊佐さん。よろしくお願いします」というメイルが届きます。この朝は、08時40分に業務を終了し自宅に戻りました。寒い曇りの朝でした。
この日(12月30日)の夕刻、再び南淡路まで買い物に出かけ、洲本のジャスコでも買い物をして21時50分にオフィスに出向いてきました。すると、10時36分に大崎の遊佐徹氏より「今のところ、メイヒルは天気が悪いようでルーフは閉まったままです。対象が高く昇る日本時間20時過ぎには天候が回復するよう祈っています。大崎の天気もあまりよくありません」という連絡、17時14分に上尾の門田健一氏より「この時期に山形での発見は珍しいですね。こちらは透明度が低いですが快晴です。PSNが昇ってきたら狙ってみます。現在は風がやや強いので収まってくれるといいのですが……」という連絡もありました。板垣氏からは、その返信「本当にそうですね。山形はほとんど雪曇りです。でも短時間だけ晴れるときがあるのです。でも、晴れていても雪が降っているときがあるので要注意です。ときどき望遠鏡に雪が積もります。今朝方は幸運でした。確認観測よろしくお願いします」が送られていました。さらに22時05分に遊佐氏より「さきほどまでメイヒルの天気を見ていましたが、結局、ルーフは開かれず、現地ではまもなく薄明が始まります。宮城は曇っています。03時頃、オーストラリアの40cmを向けてみたいと思いますが、薄明開始時に20゚にしかならず悪条件です。上尾の成果を期待しております」が届きます。
しかし、この時期は無理をしているせいか身体がだるいので、1時間ほど業務をしたところで、22時44分に『今日は昼間に起きていたので、これから帰ってちょっと眠ってきます。早く観測できた場合、携帯に連絡して起こしてください』というメイルを送り、自宅に戻り寝ることにしました。22時56分には、門田氏より「お忙しいところご苦労さまです。現在は快晴で彗星を観測中ですが、透明度が低く、また月明かりの影響が大きくスカイは2分露出で5万カウントを超えています。17等のPSNを確認するには十分な高度が必要ですので、04時以降の観測になりそうです」というメイルを見て、『この状況では早期に確認観測の報告はないだろう……』と安心して、23時00分にいったん自宅に戻りました。
目覚めたのは12月31日03時05分のことです。そして、再び、オフィスに出向いてきました。すると、23時14分には、門田氏より「メイヒルは悪天候だったとのことで残念でした。こちらは風は止んだのですが、月明かりで空が明るく、湿度70%で星の輝きが鈍くてS/Nが低い写りです。多数のコンポジットが必要になりそうです。ヒル彗星(2009 U3)に向けていたのですが、高度33゚で2分露光、6万カウントを超えたので打ち切りました」というメイルが届いていました。そこで門田氏には03時50分に『03時25分に戻ってきましたが、光度から考えると無理かもしれませんね』という返信を送っておきました。03時57分には、遊佐氏より「ムールックでの観測を試みましたが、低空でやはりだめでした」という連絡が入ります。このため『今夜はだめか……』と思ってしまいました。
しかし、そう思い始めた頃のことです。04時31分に門田氏より「高度30゚から3分露出で観測を始めました。途中でコンポジットしてみるとPSNの存在が確認できました。わずかに視野をずらして2組をコンポジットして、ノイズではないことをチェック済みです。測定可能な画像を得るため、もうしばらく撮像を続けます」というメイルとともにその確認画像が送られてきます。氏の画像には、銀河の東南東に出現したPSNがその外縁部にくっつくように写っていました。そして、それから1時間以上が経過した05時45分に門田氏より「東の空は月明かりの影響が弱まり、3分露光のコンポジットでPSNを確認できました。以下の位置に恒星像が存在します。光度は17.2等でした。機材は25cm f/5.0反射+CCD(ノーフィルター)で、180秒露光です。16枚のフレームをコンポジットして、位置はGSC-ACT、光度はTycho-2(V等級)で測定しました。極限等級は18.8等でした。観測中の75分間には、移動は認められませんでした。23フレーム(総露光時間69分)を撮像し、高度が低い前半を省いて、測定には16フレームを使いました」という確認報告が届きます。氏は、悪条件の中でずいぶん苦労されたようでした。とにかく、氏のこの確認を06時01分にダンに送付しました。それを知った板垣氏からは06時28分に「拝見しました。ありがとうございます。山形は、月も見えない雪曇りだったので早く寝ました。そして、今起きました。門田さん。私が寝ている間に確認観測を行っていただき申しわけありません。ありがとうございます。遊佐さん。何度も遠隔操作に挑戦していただき、ありがとうございます。山形は当分晴れそうにありません」というお礼状が送られてきました。ダンは、07時52分到着のCBET 2102でこの発見を公表しました。
そのCBET 2102を見た遊佐氏から08時05分に「ただいま、新着のCBETでSUPERNOVA 2009nk IN NGC 5491として公表されましたね。板垣さん。おめでとうございます。上尾で無事確認されて安心しました。今回、私はメイヒル、ムールック、大崎の3か所で撃沈しました。180秒露光23フレーム撮影とは恐れ入りました。超低空や首都圏の光害の中で20等を観測する門田さんのS/Nを高めるための極意を見せていただいた思いです。皆さん、今年一年はたいへんお世話になりました。心より感謝申しあげます。ありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎え下さい」というメイルがありました。私も、08時35分に報道各社に「新天体発見情報No.153」を発行して、09時10分に自宅に戻りました。ここでも雪雲が漂う寒い晴れた朝のことです。明け方には、外気温は0℃Cまで下がっていました。
その夜(12月31日)にオフィスに出向くと13時29分に門田氏から「板垣さん。このたびの発見、誠におめでとうございます。中野さん。迅速なご手配をありがとうございました。いつもお手数をお掛けします。遊佐さん。観測できず残念でしたが、ご報告をいただき励みになりました。月明かりと低い透明度で空の条件が良くなかった上に、銀河の腕に重なっていたため確認可能な限界に近いと思いました。そこで飽和ギリギリの露出時間をかけて、できる限りの枚数を撮像しました。最初のフレームは、6万カウントを超えていましたが、高度が高くなるにつれてスカイのレベルは下がり、少しずつ写りが良くなってきました。撮像中に視野をわずかにずらしてホットピクセルの誤認を避けています。コンポジット枚数を23枚全て、後半12枚、8枚、16枚と変更して何度も測定し、もっともうまく重心が得られる枚数を採用しました。測定した16枚コンポジットの画像です。添付しますのでご覧ください。今年も、いろいろなシーンで新天体の発見に関わることができて幸せでした。どうぞ良いお年をお迎えください。本日は雲が多く風が強いので年越し観測は見送りになるかもしれません。年明けの観測は元旦の夜からスタートします」というメイルが届きます。
いつものことですが『門田さん。確認に半夜の仕事量をかけてしまいましたね。ご苦労様でした。また、ありがとうございました』。それから4日後の1月4日11時43分になって、板垣氏からその返信が届きます。そこには「あらためて新年おめでとうございます。画像を拝見しました。門田さんの観測技法と努力には、いつも感心しています。私が栃木で30cmで撮影したものと比べると驚くばかりの画像です。特に月明かりの影響が大きい時には脱帽です。この数日、栃木で捜索をしましたが、まともに写りませんでした。そんな明るい空でも、山形の60cmなら苦労せずに写ります。超新星捜索をやるために導入した望遠鏡ではないのですが、60cm f/5.7は偶然ベストの機材だったのかもしれません。満月でも発見できるのは60cmのお陰と思っています(透明度の悪い時も同じです)。写真は、栃木の「星小屋」での新年の夜明けです。今年もよろしくお願いします」と書かれてありました。
明るい超新星2010B in NGC 5370
予想どおり、年末年始は満月のためか新天体発見(本物)は報告されませんでした。しかし、1月7日から8日の早朝にかけて、小惑星センターのNEO確認のウェッブ・ページにある天体(RA27D55)が彗星であるという報告が守山の井狩康一氏、東京の佐藤英貴氏、秦野の浅見敦夫氏から届きます。さらに1月7日15時16分には佐藤氏、8日03時47分には上尾の門田健一氏から、同じくBS03692も彗星であるという報告があります。これらの天体は、1月8日発行のIAUC 9104とIAUC 9105で、それぞれ、新彗星ヒル(2010 A1)と新彗星LINEAR(2010 A2)として公表されます。その夜のことです。門田氏の報告からわずか2分後の1月8日03時49分に14等級の明るい超新星状天体の発見が広島の坪井正紀氏から届きます。(以下、来月号に続きます)。