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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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070(2010年5月)

ペガスス座の激変星(VSX J213806.5+261957)

2010年5月8日02時03分に大崎の遊佐氏から「ボアッティーニ彗星(2010 J1)の画像をウェッブ・サイトに置きました。ご覧いただければ光栄です。本日、星ナビが手元に届きました。毎月楽しみにしている新天体発見情報ですが、今号では、板垣さんのSN2009imの発見に関連して小生のことを紹介いただき、たいへん光栄に存じます。ありがとうございました。ついでに、まったくの別件ですが……私の同級生で、津曲という者が洲本市上物部に住んでおります。ハレー彗星の頃に仙台市天文台に一緒にたむろしていた学生の一人で、小石川さんのネガを一番多く精密位置測定していた人物です。ときどき洲本のジャスコで中野さんをお見受けするそうですが、挨拶しかねているそうです」というメイルが届きます。『知らないところで行動を見られているということは、怖いことだなぁ……』と思ってそれを読みました。

そしてこの彗星の軌道を改良し、05時34分にOAA/CS(※注:2010年末で東亜天文学会を退会しましたので、すでに2年前から使用していた「Orbit Astronomy Association」をOAAの略称として使用しています)のEMESに『全光度が16等級とそれほど明るい彗星ではありませんが、IAUC 9143にあるとおり多くの観測が報告されています。我が国からも、東京の佐藤英貴氏、大崎の遊佐徹氏、守山の井狩康一氏、八束の安部裕史氏、上尾の門田健一氏から、その追跡観測が報告されました。彗星のCCD全光度は、5月7日に16.0等(佐藤)、16.2等(遊佐、安部)、16.0等(門田)と観測されています』というコメントをつけて入れました。そして、遊佐氏の画像を見ました。すると、遊佐氏が報告している尾の長さよりももっと長い尾があるような気がします。そこで05時39分に『画像にある尾の長さは20"どころか、縮尺寸法分の尾が見えているのではありませんか。確認作業は今後ともよろしく。ハッハッハ……そうですか。そんな方が洲本におられるのですか。世間は狭いですね……。しかし、小石川さんは報告時に測定者の名前を上げていませんでした。そのため、私は彼の名前を知りませんでした』というメイルを返しておきました。遊佐氏からは08時50分に「C/2010 J1の尾についてご指摘ありがとうございます。20"というのは転記ミスでした。当初、MPCとCBATには位置観測とともに60"と報告しましたが、中野さんのおっしゃるとおり、10'程度伸びていますね。もう一度測り直します」というメイルが返ってきました。

その朝は08時35分に自宅に戻ってきました。空は薄曇りでした。その日の夕方のことです。睡眠中の18時24分に携帯が鳴ります。『この番号は誰だろう……』と思って電話に出ると、掛川の金子静夫氏からでした。氏は「9等級の新星状天体(PN)を発見しました」と話します。『明るいですね。どこかで見つかっているかもしれませんね。これからオフィスに出向いて処理します』と返答し、19時05分にオフィスに出向いてきました。

すると、金子氏からの報告は15時46分に「既知の天体でしょうか。ご確認のほどよろしくお願い致します。詳細は添付資料に記載いたしました。また、今朝の撮影画像と過去画像(5月2日)と比較したものを添付いたします」というメイルが届いていました。そこには「2010年5月8日に85mm f/2.0レンズ+Canon EOS Kiss Digitalで03時53分に20秒露光でペガスス座を撮影した画像上に、9.0等の新星状天体を見つけました。出現位置はThe Skyからの目測です。最微光星は12.4等。Digital Sky Survey(DSS)には、出現位置に恒星はありません」という発見報告がありました。添付された画像を見ましたが、天体に矢印がないために、どれがどれだか、さっぱりわかりません。そこで19時13分に『新星に直線の印を2か所につけた画像をください』というメイルを送っておきました。発見画像の枚数と他の過去の画像があるのかどうか書かれてありませんでしたので、19時20分に金子氏に電話して『画像に印を入れて欲しい』ことをもう一度お願いし、『発見画像の枚数、および、過去画像の有無』をたずねました。すると「発見画像は2枚。過去画像は、まだ調査していないが、5月2日02時48分に撮影した画像には出現していない」とのことです。19時41分に金子氏から画像が届きます。その画像を見て『あぁ、これか。ずいぶん明るいや。すぐそばに暗い星があるなぁ……』と思いながらその出現位置を測定することにしました。新星は赤経21h38m07s.03、 赤緯+26゚20'03".0に出現しています。また、その光度は9.1等と測光されました。極限等級は13.2等くらいでした。そこで、氏の発見をダン(グリーン)に連絡しました。20時37分のことです。

ところが……です。ダンへの報告が終わって、メイル・ホルダーに目をやりました。すると金子氏からの報告の54分前の14時52分に、サブジェクトが「PNか、激変星」となったCBET 2273が届いていることに気づきます。そこには「この天体は、すでに5月7日03時半頃に韓国の李大岩氏によって10.8等で発見され、氏は翌日(=金子氏の発見日)03時半頃に8.4等で確認した」と公表されていました。『な〜んだ。すでに公表されていたのか』と思ってそれを見ました。そして20時43分にダンに『申し訳ない。すでに発見が公表されていた。報告時にこのCBET 2273の到着に気づかなかった……』というメイルを送っておきました。そして、21時30分にオフィスを離れ、ジャスコに寄って買い物して自宅に戻り、再び眠りにつきました。

その夜、オフィスに戻ってきたのは5月9日03時40分のことです。すると、福岡の山岡均氏から22時50分に「すみません。JPEG画像の件なんですが、この画像から新星の位置を測れますでしょうか。李さんの確認観測画像です。自分でやろうと頑張ったんですが……」というメイルが届いていました。さらに金子氏からは「早速の対応ありがとうございました。まずは突発な天体だったようで、ミスではなく安心しました。韓国の李さんも撮影されていたとのことで、さすがと思いました。今夜、晴れるようでしたら観測してみます。増光しているか楽しみです。過去の画像をざっと確認してみました。2009年6月までの画像(同一機材)では、増光は認められませんでした。2008年12月の画像にも増光なしでした。ただし最微光星は11等〜12.5等級ですが……」という過去画像の調査も届いていました。

また、23時54分には、遊佐氏から「すでに位置の報告をしましたが、今日もC/2010 J1を観測しました。位置角160゚の方向に、30"ほどの長さの淡く広がった尾が写っていますが、昨夜のような長く伸びていた尾は写っていません。視直径は20"で、強く集光しています。適当な比較星がないため、全光度は出しませんでした。さて、昨日のこの彗星の尾の計測を再度行いました。位置角165゚の方向に1'.7の尾(最長5'.5?)という結果となりました。明るい星をまたいでいて、一本の尾なのかどうかよくわかりませんが、ステライメージでいろいろ見てみる限り、尾は2'弱でいったん切れているようなので、確実なところで1'.7としました。なお、あの画像上の尺度は大きさ、傾きともにずれていたことに気づきました。ビニングしているのをすっかり忘れてしまっていたのと、カメラの回転角の補正が不十分でした。訂正したものを、再度サイトに掲げました。ご覧ください」というメイルが届いていました。そして5月9日01時45分には、山岡氏から「山形の板垣氏がこの星を00時46分に観測し、その光度が8.8等であった」ことがダンに報告されていました。

ダンは、これらの情報を載せたCBET 2274とCBET 2275を04時過ぎに発行しました。この天体は、すでに海外でも観測されていました。さらにスペクトル観測も掲載され、この星は矮新星のようでした。その頃には、山岡氏から依頼のあった李氏の画像からの位置の測定が終了し、それをダンに報告しておきました。金子氏からは04時39分に「今朝、再確認の画像をとることができました。参考までにお送り致します。撮影時刻は02時31分です。光度はステライメージにて測定してみました。露出を抑えた3枚のJPEG画像から光度は8.9等〜9.2等となりました。昨日の画像を同様に測定してみて9.2等でしたので、同じか若干増光しているように感じられました」という報告も届いていました。

超新星2010cp in NGC 4877

この日(5月9日)の朝は09時15分に自宅に戻ってきました。空は曇っていましたが、気温は次第に高くなってきていました。その夜は19時47分に自宅を離れ、南淡路で買い物をして、最後に洲本のジャスコに寄り、オフィスには21時40分に出向いてきました。発見は……続くものです。23時23分に携帯が鳴ります。山形の板垣公一氏からでした。『また何か見つけたな……』と思って電話に出ると、案の定、氏は「NGC 4877に超新星を発見しました」と話します。そして氏からは、確認作業を行うためにこの情報が23時31分に上尾の門田健一氏に送られていました。そこには「報告に少し時間をください」と書かれてありました。すると、門田氏から23時52分に「すぐ向けたいところですが、今夜は雲に覆われています」というメイルが板垣氏に送られていました。『そうか、上尾も曇天か』。いずこも天候が悪く、しばらく国内での確認作業は無理な状態のようでした。

板垣氏から発見報告が届いたのは、それから約40分後の5月10日00時31分のことです。そこには「60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、2010年5月9日夜、22時57分におとめ座にあるNGC 4877を15秒露光で撮影した捜索画像上に17.5等の超新星状天体(PSN)を発見しました。発見後に撮られた10枚以上の画像上にこれを確認しました。この超新星は、同銀河を2010年5月1日に捜索したときには、まだ出現していませんでした。また、過去の捜索画像上、およびDSSにもその姿は見られません。画像の極限等級は19.0等、60分間の追跡で移動なしです。PSNは、銀河核から西に8"、南に19"離れた位置に出現しています」と書かれてありました。氏の報告は、02時06分にダンに送付しました。門田氏からは02時40分に「現在の天候は曇天で、朝はちょっと早い出勤ですので、今夜はそろそろ作業を終えます。板垣さんの超新星、無事に確認されることを願っています」というメイルが届いていました。

夜が明けて『となると、遊佐氏に期待か……』と思っていると、07時54分に板垣氏から直接、遊佐氏に「おはようございます。運よくPSNを見つけ中野さんに報告をお願いしました。PSNの確認をしてくださると嬉しいです」という確認依頼が送られていました。遊佐氏からは08時19分に「昨日は大崎からも蔵王がよく見える、とても澄んだ空でした。PSNの件、了解しました。今のところニューメキシコはやや雲が多いようですが、おとめ座ですので、日本時で12時〜17時過ぎにかけて観測できる位置にあります。今日は仕事がないので、じっくり落ちついて観測できると思います。確認できましたら中野さんにも連絡いたします」という返信が送られていました。『これで遊佐さんが何とか確認してくれるだろう』と思いながら09時00分に帰宅しました。曇った空からは小雨が落ちてきていました。

この頃、無線LANの調子が悪く、自宅からインターネットに接続できませんでした。そのため『さぁ、今日はダンがオフィスに出てくる22時頃までには、私もオフィスに出向かないと……』と考え、15時半に就寝しました。そして、この日(5月10日)オフィスに出向いてきたのは22時50分のことです。すると、14時31分に遊佐氏から報告が届いていました。そこには「12時34分頃、米国メイヒルにあるリモート望遠鏡で、板垣さん発見のPSNの存在を確認しました。光度は16.8等で、板垣さんの発見画像のときよりも増光していると思われます。120秒露光、4フレーム加算。限界等級は19.5等です。焦点距離が短く解像度は1ピクセルあたり2".2です。そのため銀河の腕に引っ張られているのか、赤経方向のバラツキが少しありましたので、全6フレーム撮影したうち、程度の良い4フレームを選んで加算して測定しました」という確認報告でした。そこには英文の報告もありました。17時40分には、板垣氏から遊佐氏宛てに「観測をありがとうございます。それにしても素晴らしい画像ですね。これで25cmですか。私の60cmと逆のようですね」というお礼も送られていました。『な〜んだ、遊佐さんは「もっとよく寝ろ」と気をきかせて送ってくれたのか』と氏の報告を見ました。『それじゃお言葉に甘えて……』と、5月11日00時15分、一旦自宅に戻り、再度眠ることにしました。そしてオフィスに出向いてきたのは、02時30分です。しかしこの夜は、明るくなり始めたマックノート彗星(2009 R1)の観測以外の情報は送られてきませんでした。その日の朝は08時50分に自宅に戻りました。5月上旬にしては、この日の朝も天候が悪く曇り空でした。

自宅に戻り、大リーグのタンパベイ・レイズとロサンゼルス・エンジェルズの試合を見ていた13時32分に、板垣氏から「遊佐さんの確認観測を送ってくれた……」という電話があります。『いや、あれは彼が直接送ったんじゃないの?』と話すと「やっぱりそうですか。カーボンコピー(CC)で報告が届かないから、そう思っているんじゃないかと連絡しました。遊佐さんは送っていません」と答えます。『なんだ。てっきり報告済みと思っていた。今、無線LANの調子が悪いので、遊佐さんに直接送るように伝えてもらえますか』とお願いして電話を切りました。このように『発見・確認作業の過程では、いろんな思い込みで意思が伝わらず、また、間違って伝わったりして思わぬことがいろいろと起こってくるものです』というのが20年以上、この作業を行っている印象でしょうか……。板垣氏は遊佐氏に連絡をとり、遊佐氏は14時08分に「確認観測」をダンに送付しました。そして14時51分に「先ほどのCCのメイルのとおり、昨日のPSNの報告をCBATとグリーン氏宛に送付しました。このたびは、紛らわしい形で中野さんに報告をしてしまいまして、すみませんでした。メイルの最初に「以下のとおり観測しましたのでCBATへの報告をお願いします」などともっとわかりやすく書くべきだったと反省しております。今後に活かしていきたいと思いますので、どうぞご容赦願います。今後、同様のケースの場合は、中野さんからではなく、直接私からCBATに送っていいものかお伺いします。もちろん中野さんにはCCで送ります。PSNのその後のことが気になり、2夜目の観測をしようと昼前からGRASの画面を見ていますが、悪天候でルーフは閉まったままです」というメイルが届きます。氏には『確認観測はご自分で報告されてください』と答えておきました。

5月11日夜、オフィスに出向くと、遊佐氏から19時27分に「さきほど、5月11日18時19分にも、豪州ムールックにある41cm反射を遠隔操作して、この超新星の出現を確認しました。すでにCCでお送りしたとおり、CBATには報告済みです。昨日と光度は変わらないようです」というメイルが届いていました。そこで氏には5月12日の朝、05時03分になって『ご苦労様でした。板垣さんより電話があるまで、てっきり報告してくれたものと思っていました。確かめれば良かったですね。申し訳ありません。今後も確認観測はご自分で報告していただければ……と存じます。回を重ねていくと、次第に信用されてだんだん箔がついてきます』というお礼状を返しておきました。ダンは、5月12日07時32分に到着のCBET 2276で板垣氏の発見、遊佐氏の確認観測を公表しました。07時35分に遊佐氏から「ありがとうございました。こちらこそ申し訳ありませんでした。このところペガススの激変星や新彗星の発見が続いていましたので、中野さんの手間が少しでも省ければと思って英文で書きましたが、私の説明不足でした。今後は直接報告させていただきます。くれぐれも、ミスがないように細心の注意を払いたいと思いますが、必ずCCで中野さんにも送付しますので、事後のチェックもお願いします。もともとそそっかしい方なのですが、老眼も入る歳に突入しましたので気を引き締めてまいります。……と、ここまで書いていましたら、CBET 2276が到着しました。SUPERNOVA 2010cpとなりましたね。板垣さん、おめでとうございます。お祝い申し上げます」というメイルが届きます。そこで、報道各社に新天体発見を知らせる「新天体発見情報No.160」を作成し、08時29分にこの発見を通知しました。

その日の夜オフィスに出向くと、02時18分に門田氏より「中野さん、遅くまで作業されて、迅速な報告と新天体発見情報の発行などの対応、ご苦労さまでした。板垣さん、このたびのご発見、誠におめでとうございます。1夜目の確認観測で公表されなかったので、少し心配していました。遊佐さん、2夜続けての確認作業、ご苦労さまです。25cmと41cmの望遠鏡をリモートで駆使されたとは、恐れ入りました」という今回の確認作業の締めとなるメイルが届きました。

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