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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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072(2010年6〜7月)

超新星2010dq in NGC 57

発見は、まだ続きます。上尾の門田健一氏から超新星2010dnの締めとなるメイル(先月号参照)が届いた2時間足らず後、6月4日朝のできごとです。自宅で彗星の観測を行ったあと、薄明を迎え休息していると、山形の板垣公一氏から04時25分に電話があります。その前の04時21分に携帯にも連絡があったようですが、ベルが聞こえませんでした。氏によるとまた「超新星を発見した」ということです。氏には『それでは、これからオフィスに戻ります』と話して、04時40分にオフィスに戻ってきました。この朝は、ゴミの収集日です。収集車は、04時50分にやってきます。そこで、まず、オフィスのゴミを捨てました。

そして、コンピュータを見ると氏のメイルは6月4日4時19分に届いていました。そこには「60-m f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、2010年6月4日早朝、03時03分にうお座にあるNGC 57を撮影した捜索画像上に17.3等の超新星状天体(PSN)を発見しました。この超新星の出現は、その後に撮られた10枚以上の画像上に確認しました。超新星の姿は、過去の捜索画像上およびDSS(Digital Sky Survey)にも写っていません。しかし、5月31日に同反射望遠鏡で撮影していた捜索画像を調べたところ、この超新星は18.0等の明るさで、すでに出現していたことが判明しました。超新星は銀河核から西に17"、南に1"離れた位置に出現しています」という発見報告が書かれてありました。……ということは、この超新星には発見前に観測があります。従って、すぐ公表できます。そこで05時20分にこの発見を天文電報中央局のダン(グリーン)に連絡しました。それから約1時間半が過ぎた06時46分、CBET 2303が届きます。そこには、この超新星は2010dqとして早々と公表されていました。

発見公表後の07時20分には、板垣氏から門田氏へ宛てた「おはようございます。ありがとうございました。先日の超新星2010dnの件(先月号参照)ですが、言われるとおりLBV(系外銀河に出現した大きな新星の一種)らしいです。光度はわずかに明るくなっています。海外の研究者からも画像依頼が来ました。これも、また楽しみです」というメイルが転送されて届きます。08時45分には報道各社に新天体発見情報No.163を送り、氏の発見を伝えました。大崎の遊佐徹氏からは09時21分に「中野さん、新天体発見情報とSN1999giの画像、ありがとうございました。いつも迅速な処理、お疲れさまです。板垣さん、SN2010dnに次いでSN2010dqの発見と、相次ぐ快挙に心よりお祝い申しあげます。このところすごいペースだと思ったら、1か月に4個目だったんですね。門田さん、連日の深夜までの勤務大変ですね。お体を壊さないようにご自愛ください」というメイルがあります。また、18時00分に届いたメイルによると遊佐氏は「SN2010dnのその後の光度変化が気になって、今日の昼過ぎにメイヒルの25cmで観測しました。空の状態が良くない上に120秒露光の2コマしか撮れませんでした。画像は加算していますが、写りが良くありません。極限等級は18等程度で、位置・光度の精度もよくありません。参考程度にご覧下さい。2ピクセル程度の範囲で測光すると、17.0等となりました。ノーフィルターです」という超新星2010dqの光度観測と画像が届きました。なお、遊佐氏のメイルにあるとおり、板垣氏は5月9日、15日、31日に別の超新星2010cp、2010cr、2010dnを発見しています。板垣氏は最後の発見から4日足らずの間にもう1個、別の超新星を発見したことになります。

マックノート彗星(2009 R1)

この『新天体発見情報』でもときどき登場してきたこの彗星は、6月6日朝には生駒の永島和郎氏がその眼視光度を5.3等と観測しました。同朝、長野の大島雄二氏もそのCCD全光度を5.7等と観測しています。これを知った山形の板垣公一氏は、6月7日朝にそのCCD全光度を5.0等と観測しました。氏からはその画像も送られてきました。それを見ると、立派な大彗星に成長しているかのようでした。また、スペインのゴンザレスからも、友人のジャガー(独)が撮影した見事な画像も送られてきます。彗星は前日に比べると約1等級近くも増光しました。今後まだ明るくなるはずです。『今後も期待できるなぁ……』と思っていました。この彗星の増光は、6月7日06時50分になって観測をいただいた仲間に知らせました。

そんな時期、6月9日05時29分に加古川の菅野松男氏より「超新星を捜索して今日で満2年になります。捜索日数はその間に約360日、撮像画像数は約14,300画像になりますが、超新星は未だに発見できません。その傍ら、先月から新星探しを再開しました。昨日6月6日01時21分にペンタックス400mm f/4.0レンズで撮影した捜索画像に、11.2等と非常に暗いですが、新星らしき星に気づきました。発見後、01時53分に26.0cm f/6.9反射望遠鏡でこの星の存在を確認しました。なおこの星は、5月15日の捜索画像にも写っています」という発見報告が届きます。AAVSOのウェッブ・サイトからこの出現位置近くにある変光星のリストを作成して氏に送っておきました。そして、菅野氏の画像からその出現位置を測定しました。すると、ASAS J182140-3411.4か、V1858 Sgrと位置が0".5以内に一致し、ほぼこの星と同定できます。また、測光光度は11.0等でした。そこでこのことを菅野氏に連絡しました。06時30分のことです。ただ、リストに掲げられている変光範囲よりも明るいために、この報告を07時00分にダンに知らせました。

6月9/10日夜、オフィスに出向いてくると、18時23分に菅野氏より「今朝は早々と変光星名をお教えいただきありがとうございました。阪神大震災以来新星捜索を休んでいましたが、このたび久しぶりに発見の醍醐味を体験しました。ところで、近年変光星数も非常に多くなり、検索が大変な時代になりましたが、お教えいただいた検索方法で効率よく検索できることを知り、大変うれしく思います。今回の写真も、早速測定して国内、海外まで報告いただき、変光星観測のお役に立てたことに、これまたうれしく思っています。板垣氏から電話もいただき、また膨大なカタログの出先も教えていただきました。今回の観測は貴殿のおかげで非常に多くの収穫がありました。厚くお礼を申し上げると共に、今後ともよろしくご指導の程お願い申し上げます。なお、板垣氏が先日発見された超新星2010dqを撮影していますので、画像を添付します」というメイルが届いていました。

さて、増光の期待されるマックノート彗星(2009 R1)ですが、6月10日09時45分に山口の吉本勝己氏から「彗星の眼視全光度が意外と上がってないです。4等台に入っているかと思っていたのですが……、6月9日朝には5.5等、10日朝には5.4等でした。ただ、集光は一段と強くなり、コマが小さいままなので3.5cm双眼では恒星のように見えています」という観測の報告があります。『えっ、増光していない……。そうなのか』と思いながら、翌6月11日朝、04時35分に氏に『観測をありがとうございます。本当だねぇ……次回に届く観測は4等級にと思っていたのですが……。まぁ6月8日と9日の予報光度はまだ5等級なので、こんなもんですかねぇ……。qが0.40AUなので、もうちょっと期待していましょう。しかしちょっと心配になります。10P/テンペル彗星は、その発見後1世紀半も経っている彗星なのに、毎回帰ごと予報どおりに明るくなりますね。板垣さんの彗星捜索でも引っかかり、びっくりしたとのことです』というメイルを返しておきました。この日の朝、07時49分には、大島氏からも「今朝のマックノート彗星です。CCD全光度が6.7等に落ちました。なんだか崩壊のニオイもしてます」という報告、さらにその日の昼には、大崎の遊佐徹氏よりも「昨夕、米国メイヒルのリモート望遠鏡で、マックノート彗星を観測しました。画像はウェッブ・サイトをご覧ください。写野内のTycho星表の3つの星と比較しましたが、光度は6.8等でした。このところの眼視で観測されている観測より1等以上暗くなります。視直径5'.7と計測しましたが、それ以上いくらアパーチャーを広げても、あまり明るく測光できません。長いイオンの尾と、淡いダストの尾がVの字に広がっています。コマがなんとなくシュモクザメのような逆三角形にも見えるため、よもや崩壊しかけ……と、いやな予感もしましたが、いまのところ核近傍はしっかりしているようです」という報告もあります。

マックノート彗星(2009 R1)の光度変化 結局、光度変化図にもあるとおり、この彗星の光度は、その後も増光せずに5等級で上げ止まりになってしまいました。また、7月5日になって、スペインのゴンザレスは、標高1720mの高地で絶好の観測条件の元、地平高度+6゚にあるこの彗星をとらえることを試みましたが、彗星は5等級より暗く、観測できなかったとのことです。彗星は、太陽に接近後(2009年9月以後)、南半球で観測可能となりました。しかし、彗星の位置観測も6月29日の観測(核光度で8.8等)を最後に我々の視界から消え去ってしまいました。

この彗星は、2009年9月9日、サイディング・スプリングのマックノートによって、50cmウプサラ・シュミットでけんびきょう座を撮影した捜索画像上に17等級の新彗星として発見され彗星です。幸いなことに、発見当初にガラッドとマックノートが同年7月20日、8月1日と18日に撮影した捜索画像上に写っていた移動天体の観測群の中からこの彗星の発見前の観測が見つかり、1年後に2等級以上に明るくなることが期待されていました。しかし、この彗星の原初軌道の軌道長半径の逆数は1/a(origin)=+0.000013で、いわゆるオールトの彗星雲から太陽系内部にやってきたバージン彗星の1つでした。よくこの種の彗星は明るくならないといわれるように、光度予報の難しい彗星でした。なお、6月には、彗星の動きには、非重力効果による影響も見られるようになり、この頃から減光を始めたのでしょう。

へびつかい座の新星状天体

2010年6月下旬から7月上旬にかけて蒸し暑い日が続いていました。まだ梅雨も明けていないのに、6月30日朝には気温も32℃まで上昇しました。しかし、7月1/2日夜にはちょっと過ごしやすい気温に下がっていました。その夜のことです。7月2日01時25分に水戸の櫻井幸夫氏から1通のメイルが届きます。そこには「6月30日夜、22時22分にフジフイルムFinePix S2Pro+Nikon 180mm f/2.8レンズ開放で雲間から撮影した画像から新星状天体(PN)を見つけました。位置は赤緯α=17h30m24s.3、赤経δ=−22゚22'53"、光度は10.1等です。ただし、2枚目のコマは雲がかかってしまい確認できません。この場合、報告すべきではないのかもしれませんが、もしも……ということもあるので、念のため連絡いたします。直近の6月24日(極限等級11.4等)には写っていません。変光星・小惑星・IRAS天体についてはチェックしました。確認写真を撮らないうちに報告するのは心苦しいのですが、しばらく天候も回復しそうにないのでご容赦ください」と書かれてありました。1画像しかないのがちょっと気がかりですが、氏からの画像には、明らかに恒星像が見られるために、この発見は04時36分にダンに報告しました。そこには『Sakuraiから画像が届いているので、出現位置を測定する』と書き添えておきました。そして、05時09分に『測定が終了した。出現位置は17h30m23s.65、−22゚22'54".8、光度は10.4等だ。位置の誤差は赤経で±6"、赤緯で±0".3くらい。画像の極限等級は12.2等』という報告をダンに送りました。

この報告を知った山形の板垣公一氏から06時23分に「おはようございます。拝見しました。櫻井さん、1枚では心配ですね。本物でありますように……。門田さん、雨天ですよね。遊佐さん、リモート確認をよろしくお願いします」という連絡が届きます。また大崎の遊佐徹氏からは、07時37分に「拝見しました。今のところ、ニューメキシコ州メイヒルは雲が多いようですが、晴れましたらなるべく早い時刻にチャレンジしてみます。櫻井さん。ご無沙汰しております。実在する天体であることを祈っております。山形も上尾も、宮城も、みんな雨の予報ですね」というメイルがあります。全国的に天気の悪い時期のため、遊佐氏の確認を待つことにしました。すると、14時22分に氏から「PNは、未確認天体のウェッブ・ページに掲載されましたね。メイヒルは前線の雲が通過しているようで、雨が降っています。オーストラリアのムールックは低気圧が通過したばかりですが、これからの天気は大丈夫でしょう。18時過ぎには筒を向けられると思います」という連絡がありました。

7月2日夜はまた蒸し暑い夜に戻っていました。オフィスに出向いてくると遊佐氏は、夕方にこの星の確認作業を行ってくれたことがわかります。20時55分に氏から届いたメイルによると「先ほど、豪州ムールックの32cm f/7反射望遠鏡で、7月2日18時25分に60秒露光・3フレーム撮影しましたが、いずれのフレームにも出現位置に、新星らしき恒星像は見いだせませんでした。確認画像を送ります。極限等級は18等で、報告位置付近に17等より明るい天体はありません。比較にはDSSとDSS2を使いました」と櫻井氏によって報告された位置には、星が存在しないという確認結果が書かれていました。それを見た板垣氏から21時41分に「残念でした」というメイルが櫻井氏に送られていました。櫻井氏からは21時41分に「貴重なお時間をさいていただきましてありがとうございました。画像を見た限りでは間違いないと思ったのですが、残念ながら実在しなかったようです。天候のせいとはいえ、やはり複数コマでの確認ができない場合は、報告を見送りたいと思います。遊佐さん、海外の望遠鏡による確認観測ありがとうございました。17等より明るい天体が写らないということは、やはり実在しなかったということなのでしょう。お手数をおかけしました。板垣さん、今朝ほどはお電話ありがとうございました。二晩続けてほとんど睡眠をとっていなかったため、板垣さんの電話がなければ寝過ごしてしまい、出勤時間に間に合わないところでした。門田さん、ご無沙汰しております。今回は、天候に翻弄されてしまいました」というメイルが届きます。

さらに7月3日01時00分にはダンからも「イタリアの観測者からの報告によるとSakuraiのPNは存在しないという連絡を受けた。そのため、ウェッブ・ページからこの発見を削除する」という連絡があります。これを知った門田氏からは03時53分に「皆さま、残念でしたね。1フレームの像でも実在することがあるはずですので、判断は難しそうです。こちらは連日の曇天に加えて昼間の仕事が忙しい時期ですが、わずかな晴れ間を狙って観測を試みています」というメイルが届きます。そこで04時26分にダンに『リストから発見を削除してくれてありがとう。そのとおりだ。Yusaの確認によると、この天体はやはり存在しないということだ。申し訳なかった』というメイルを送り、この確認作業を終わることにしました。その日の朝になって遊佐氏からは「皆さま、おはようございます。PNは残念ながら存在しなかったのですね。櫻井さん、ぜひ次の機会にまた確認観測に関わらせていただければ大変うれしい限りです。ご活躍をお祈りしています。中野さん、ダンへのご報告ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」というメイルが届いていました。

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