073(2010年7〜8月)
超新星2010gi in IC 4660
2010年7月中旬は、毎日35℃前後の非常に暑い日が続いていて、この時期の空は快晴でした。7月18/19日夜も蒸し暑い夜でした。その夜、深夜を過ぎた7月19日02時36分に広島の坪井正紀氏より携帯に電話があります。氏は「超新星を発見しました。10分ほど前に発見報告を送りました」と話します。『了解しました。これから処理します』と答えて部屋に戻ってそれを確認すると、「SN 2010Bではお世話になりました。本日、また超新星捜索中に新しい超新星らしき天体(PSN)を発見しましたので報告いたします。既知の超新星はもとより、ノイズ、ゴースト、既知の小惑星、変光星について一応確認したつもりです。ご確認のほどよろしくお願いいたします。なお、報告内容で不備がありましたら、ご連絡ください。発見画像と5月31日と13日の画像を送ります」というメイルが02時20分に届いていました。続いて「2010年7月18日夕刻、21時21分に30cm f/5.3反射望遠鏡+CCDを使用して、北天こぐま座にある系外銀河IC 4660を30秒露光で撮影した捜索画像上に15.3等の超新星状天体を発見しました。その後に撮られた12枚の画像上にその出現を確認しました。移動はありません。この天体は、2010年5月13日と5月31日に撮影した過去の捜索画像上、および、DSS(Digital Sky Survey)にも、その姿は見られません。超新星は、銀河核から東に3"、南に10"離れた位置に出現しています」と書かれてありました。坪井氏からは、その画像も送られてきました。この発見は、03時34分にダン(グリーン)に送付しました。すると03時55分に坪井氏より「過去フレームの日付は日本時刻で記入してしまいました」というメイルが届きます。そこで氏に電話を入れ、ダンへの報告内容を確認しました。
この報告を知った上尾の門田健一氏から04時23分に「薄明が始まって30分が経過して、観測の片付けが終わった後でした。明晩晴れたら狙ってみます。明日(月曜日)は仕事ですので、本日はこのあたりで作業を終えます」という連絡があります。そのころ、坪井氏の画像からの測定が終了しました。出現位置は、坪井氏のものとよく一致していました。氏の画像の極限等級は17.8等くらいでした。ただ出現光度は14.9等と少し明るく測光されました。これらのことは04時33分にダンに連絡しておきました。
夜が明けて、07時17分に山形の板垣公一氏より「おはようございます。7月17日の夜遅く、皆既日食ツアーから戻りました。イースター島では天候に恵まれ、すばらしいコロナを見ることができました。当日、朝の予報では雨だったので心配しました。とても幸運でした。IC 4660は近い銀河ですね。もし、Ia型だと、明るくなるでしょうね。とても楽しみです。坪井さま。おめでとうございます」というメイルが届きます。また、大崎の遊佐徹氏からは「坪井さんのPSNの件、了解しました。米国メイヒルでは、日本時12時半ぐらいには暗くなります。今のところ天気はいいみたいです。お昼過ぎにリモートで観測できると思います。今日は非番ですので、家でじっくり観測できます。短時間で増光していますね。さらに明るく輝くことを期待しています」という連絡もあります。そのメイルを見て、帰宅することにしました。この日の朝は、すでに外気温が32℃まで上がった暑い朝でした。しかし、連日の晴天はまだ続いていました。
その夜(7月19/20日)、オフィスに出向くと、遊佐氏から13時56分に「先ほど米国のメイヒルのリモート観測でその存在を確認しました。CBATに報告しましたので、連絡申しあげます。日本時間12時42分ごろ、120秒露光で2フレームを加算コンポジットした画像から測定し、その光度を15.0等と測光しました。アパーチャーを4ピクセルまで広げると14.6等と出ますが、銀河の腕に乗っているようなので、2ピクセル半径で測定しています。機材の調子が悪いためかややフォーカスとガイドが甘く、6フレーム中、2コマしか使い物になりませんでした」という確認観測が届いていました。また、坪井氏からも「7月19日21時01分の観測では、PSNは15.3等でした」という報告もあります。ダンは、23時31分に到着のCBET 2376でこの発見を公表しました。坪井氏からは7月20日00時23分に「このたびはお手数をおかけしまして、ありがとうございました。先ほどCBETで発表があったようですね。SN 2010Bに続き2個目にめぐり会えるとは、思ってもいませんでした。遊佐さま、門田さま、板垣さま。確認作業などたいへんお世話になりました」というメイルが届きます。なお、坪井氏の超新星発見は、2010年1月の超新星2010Bの発見(本誌2010年12月号参照)に続いて、これが2回目のことです。
発見が公表された後、00時24分には遊佐氏より「先ほど、CBET 2376が到着しました。“SUPERNOVA 2010gi IN IC 4660”として公表されましたね。坪井さん。おめでとうございます。お正月のSN 2010B以来の快挙になりますね。半年で2個というのはスゴイですね。今後ともご活躍をお祈りします。そして、また微力ながらお手伝いをさせていただければ、たいへん幸せです」。そして、02時52分には、門田氏より「このたびの超新星発見、おめでとうございます。梅雨明けの晴天到来とともに届いた吉報を受けて、晴れやかな気分になりました。中野さんの迅速な対応と、遊佐さんの確認観測ですばやく公表されましたので安心しました。今夜は、曇天で観測できませんでしたが、またの機会にお役に立つことができれば幸いです」というメイルが転送されて届きます。その日の朝、05時28分に『新天体発見情報No.164』を発行し、この発見を報道各社に知らせました。それから3日目が過ぎようとしていた7月23日01時02分、遊佐氏から「今晩、久しぶりに大崎生涯学習センターの屋上天文台で観測しました。坪井さんの発見した超新星2010giは、7月22日20時44分に14.5等でした。若干増光しているように思います」という観測が届いていました。
超新星2010gl in NGC 6189
その7月23日朝は、どんよりと曇った暑い朝でした。その夜のことです。21時41分に愛知県西尾市の小島信久氏より携帯に電話があります。氏によると「7月23日にNGC 6191に16等級の超新星を発見した」というのです。小島氏といえば、たくさんの思い出があります。今より約45年前、天文年鑑1965年度版(私自身が購入した3冊目の天文年鑑)に自作の15cmシュミット・カメラによる「はくちょう座α星ふきん」というすばらしい写真が掲載されていました。この時期、天体写真に熱中していた私は、『すごいなぁ……。どうやればこのような写真が撮れるんだろう』と思いながら、それをながめていました。氏は、また、1970年代に2個の新彗星を発見しています。さらに小島氏からは、これまでも、多数の超新星の観測や確認依頼が届いていました。そのため、いずれ、発見報告も届くだろうと思っていました。
小島氏の話では「発見時刻は7月23日00時12分、出現位置は赤経16h32m19s.92、赤緯+59゚33'39".7、光度は16等。超新星は、銀河核から西に26"、南に25"離れた位置に出現している」とのことです。氏には『わかりました。調べてみます』と言って電話を切りました。すでに発見されている超新星を調べると、その発見位置から氏の言われるNGC 6191ではなく、NGC 6189に出現した超新星2010glのようです。この超新星は、7月18日16時頃にKAIT超新星サーベイで発見され、7月20日09時03分到着のCBET 2382で公表されていました。小島氏にはこのことを伝えました。しかし、念のため、仲間に確認してもらうために、7月23日22時05分に「小島信久さんからNGC 6189にSN発見の報告がありました。発見は7月23日とのことです。たぶん2010gl(発見光度18等級)ではないかと思いますが、位置が少し違うので確認してくれますか』というメイルを送りました。
すると、22時31分に大崎の遊佐徹氏より「今、酔っぱらい状態でして、今夜の観測は不可能です。すみません。月が煌々と照っていますが……」というメイルが届きます。『そうか。満月でハメをはずしていたのか』と思いながらそのメイルを読みました。しかし、満月の夜でも観測態勢を維持していた人がいます。山形の板垣公一氏からは22時37分に「今、確認しました。間違いなくNGC 6189の超新星2010glです」という確認観測が届きます。やはりNGCナンバーを間違えていたようです。さらに7月24日01時26分には、上尾の門田健一氏から「板垣さんの観測で、あっという間に確認が終わったようですね。こちらは、先ほど帰宅しました。今夜は雲が多いので観測はお休みです。仕事が忙しく明日の土曜日も出勤ですので早めに作業を終えます。もうしばらくこの状態が続きます。晴れ間を狙って観測はやっているのですが、集中できる時間がごくわずかで測定の処理が遅くなっています」というメイルもありました。そこで、その日の朝、06時05分に『昨夜のNGC 6189の超新星の件ですが、山形の板垣さんが確認してくれました。やはり、私が電話で申し上げた超新星2010glでした。それ以外の超新星は、出現していないそうです。発見光度が18.8等でしたので、増光しているようです。なお、ご報告いただいた位置が少し違うと申し上げましたが、可能ならば原因をお調べください。もう少しで発見できると存じますので、どうぞ、頑張ってください。発見をお待ちしております。なお、猛暑の折、お体をご自愛ください』という確認結果を小島氏に送っておきました。すると、07時46分に板垣氏から「おはようございます。確認画像です。位置が大きく違いますので、一応、小島さんに見てもらってください。光度は16.0等です。なお、報告位置に何もないことは確認しました」というメイルがあります。
7月24日には、小島氏からの速達が届きます。同封された画像と比較しました。すると、間違いなく超新星2010glでしたので、7月25日05時00分になって『速達が届きました。板垣さんの画像と比較いたしましたが、先生の発見された超新星は2010glでした』という連絡を送っておきました。この時期は、HICQ 2010/2011の編集時期でした。そこで、その連絡の際にダンに小島氏報告の2010glの観測を事情を書いて送っておきました。そこには、7月28日に小島氏から届いた速達にある8月7日の観測ではその光度は15.8等であったことも付け加えておきました。ダンは、8月11日12時28分到着のCBET 2405で、これらの情報を小島氏のIndependent Discoveryとして掲載してくれました。もちろん、このことは小島氏にも連絡しておきました。
りゅう座にある無名銀河に出現した超新星2010gv
この年は、8月に入っても暑い日が続きます。特に8月3日から8日にかけては、当地でも気温が37℃まで上昇する日が続いていました。このころ、8月7/8日にかけて報告のあった「新星状天体」の処理も一区切りがついた8月8日00時13分に、上尾の門田健一氏から「6月初めから2か月間ほど、ステラナビゲータ9の開発作業で多忙な状態が続いていましたが、先日一段落しました。この間、週1日の休日出勤で対応していましたが、スケジュールのキープが厳しくなり、最後の2週間は連続出勤でさらに徹夜でした。オーバーワークが続いたせいか体調が少々不調で、常に耳鳴りが気になっています。仕事が忙しい時期が梅雨の時期と重なったので観測を休む日が多く、なんとか体力を維持することができました。特に疲れていた夜は、メイルを読まずにそのまま寝たこともあり、返事が遅くなったり、差し上げなかったりしてご心配をおかけしたかもしれません。測定が滞っていますが、体の調子が元に戻るまで無理をしないように対応します。たびかさなる休日出勤のため、家の用事も溜まっています。明日は早朝から出かけますので、今夜は早めに作業を終えます」という近況が送られてきます。門田氏には、06時10分に『観測が少ないなぁ……と天候のせいかと思っていたのですが、多忙だったとのことですか。私も若いころ同じように頑張りましたが、今になって思うのですが、「頑張り」はほどほどにした方がいいです。そうでないと、門田に任せると何でもやってくれると言う思いが生まれます。もうそうなってしまっているのでしょうが、悪癖はどこかで打ち切るべきです。なにより今後の健康のためです。ただ、私もそうですが、物事を始めるまではやらなくてはいけないと思うだけで、締め切り直前にならないと仕事を始めません。もっと早く始めれば……といつも思いますが、やらなくてはいけない……、やらなくてはいけない……とだんだん、焦ってくる思いが、その間にアイデアが涌かすのだと思います。結局、悪癖は直せないのか……という感もありますが……。とにかく健康には十分注意してください』と返答しておきました。
同じ日、10時14分には、山形の板垣公一氏からは「毎日暑いですね!」という題名で、「いつも発見報告をありがとうございます。また昨日、別件でお電話をありがとうございます。「もうアマチュアは新小惑星を発見できない」というのは残念です。先日の新星状天体ですが、私もよく「うっかりミス」しますので大きなことは言えませんが、でも、こんなことも含めて「捜索の楽しさ」と思っています。「大物新天体」の幸運をお祈りいたしております。門田・遊佐さん。いつも確認観測をありがとうございます。なんかの時、ほんとうに有難いことです。いつも感謝しています。今後ともよろしくお願い致します。最後に私の愚痴話です。山形は、ほんとうに晴れません。なんともなりません。今年は、比較的早く梅雨明けしましたが晴れません。捜索できたのは、まだ4夜だけです。それも透明度が最悪です。昨夜は、南の低空のみほんの少しだけ雲がありませんでした。撮影は奇跡に近いものでした。数枚撮影後は全天ぶ厚い曇に覆われてしまいました。タヒチで見た澄んだ星空、あんなところで捜索してみたいです」というメイルも届きます。
それから1日半ほどが過ぎた8月10日は、台風4号が東シナ海まで北上してきていました。『これで少しは涼しくなるぞ……』と思っていた03時58分、板垣氏から電話があります。氏は、また「超新星を見つけました。今、報告を送りました」と話します。その氏からの報告は、すでに03時54分に届いていました。そこには「2010年8月10日、00時22分に60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、りゅう座にある無名銀河を15秒露光で撮影した捜索画像上に16.4等の超新星状天体を発見しました。この超新星の出現は、その後に撮られた10枚以上の画像上に確認しました。また、この星の姿は、過去の捜索画像上、および、DSSにも写っていません。しかし、8月3日と6日に同反射望遠鏡で撮影していた捜索画像を調べたところ、この超新星は、それぞれ17.5等と16.9等の明るさで、すでに出現していたことが判明しました」と書かれてありました。この発見は、04時51分にダンに送付しました。すると、08時14分に板垣氏から「おはようございます。目が覚めました。ふらふらです。体調悪しです。報告拝見しました。その銀河は、山岡氏によるとSDSS J175822.33+504733.1とのことです」というメイルが届きます。そこでそのことを08時18分にダンに伝えました。するとダンからは09時14分に「ベリファイ用に使った2008年の画像の極限等級を教えろ」と連絡があります。これを板垣氏に伝えました。氏からは「19.5等級です」と回答があります。そこで09時44分にこのことをダンに伝えました。
板垣氏の発見を知った大崎の遊佐徹氏からは10時28分に「板垣さんのPSNの連絡ありがとうございます。少ない晴れ間を逃さない板垣さんは、すごいですね。今のところ、ニューメキシコは晴れているようです。日本時間お昼過ぎには狙えると思います」という連絡があります。そして、確認作業に成功した遊佐氏から14時17分にダンに「米国ニューメキシコにある30cm反射を遠隔操作し、8月10日12時33分、さらに13時03分には同所の25cm反射を遠隔操作して、この星の出現を確認した。そのとき、PSNの光度は16.0等であった」という報告が送られていました。それを知った板垣氏からは15時00分そのお礼が送られていました。なお、この日の夕刻には、東京の佐藤英貴氏より2010年10月回帰予定のNEAT彗星(2002 X2)を検出したことが伝えられました。[以下、この項は、次回に続きます]