090(2012年4〜6月)
超新星 2012bv in NGC 6796
2012年4月9日には、遅れていたここサントピア・マリーナの桜もやっと満開になりました。この日の朝は、晴天の下、その桜を眺めながら11時00分に帰宅しました。その日の夕刻18時05分に広島の坪井正紀氏より携帯に電話があります。氏は「超新星を発見しました」と話します。さっそくメイルを確かめると、18時01分に氏のメイルは届いていました。『はい。報告は届いています』と返答して電話を切りました。
氏のメイルは「お久しぶりです。広島の坪井正紀です。今朝の観測において新しい超新星らしき天体を発見しましたので報告いたします。この星は、1日前に撮った画像にも16.2等で写っていますので、移動はないと判断し報告します。さらに既知の超新星、ノイズ、ゴースト、既知の小惑星、変光星について一応確認したつもりです。確認のほどよろしくお願いいたします」で始まっていました。そして、そこには「2012年4月9日早朝、03時01分頃に25cm f/4.7反射望遠鏡+CCDを使用して、30秒露光で北天りゅう座にあるNGC 6796を撮影した捜索画像上に15.7等の超新星状天体(PSN)を発見しました。この超新星は、発見前日02時19分に撮られた捜索画像上にも16.2等で写っていました。しかし超新星は、2012年3月29日と4月2日に行った捜索時にはまだ出現していませんでした。また、DSS(Digital Sky Survey)にもその姿は見られません。発見時の極限等級は18.1等です。超新星は、銀河核から西に4"、南に32"離れた位置に出現しています」と報告されていました。氏のこの報告は、18時37分に中央局(CBAT)のダン(グリーン)に送付しました。坪井氏からは、19時06分に「TOCP(未確認天体のウェッブサイト)への掲載を確認しました。今夜も確認してみます」というメイルが届きます。また、大崎の遊佐徹氏からは、20時51分に「PSNの情報ありがとうございます。先ほどまで米国メイヒルの天候モニターを見ていましたが、結局天候が回復せず、ルーフが閉まったまま薄明の時間になってしまいました。晴れたら明日も狙ってみます」という連絡が届きます。
超新星を最初に確認したのは香取の野口敏秀氏でした。氏の観測では「4月9日22時53分に15.0等」とのことです。坪井氏から氏への返信「野口さん。確認観測をありがとうございます。現在、広島は赤い月が昇っており、透明度は最悪です。PSNは連続撮影中ですが、未だに写りません。昨夜は夜半になって透明度が上がったので、がんばってみます。アメリカとロシアで観測されているようですね。中野さんにTOCPに載せていただいたおかげです。迅速な対応に感謝いたします」が届きます。野口氏の報告は、4月10日00時32分にダンに知らせました。続いて03時10分には、山形の板垣公一氏より「おはようございます。坪井さんのPSNを観測しましたので報告致します。4月10日01時11分に15.8等でした。Ia型の超新星だと13.5等くらいまで明るくなるのでは……」という観測が届きます。さらに03時11分には、上尾の門田健一氏から「今日は体調と時間帯の都合がつきましたので、PSNを観測できました。02時01分に15.6等、銀河中心の南側に明瞭な恒星像がわかります。お手数をおかけしますが、よろしくお願い申し上げます」という観測も届きます。それを見た坪井氏からは、05時10分に「PSNの確認ありがとうございました。今まで粘ったのですが、広島は透明度が回復せず、PSNの確認はできたものの良い画像は撮れませんでした」というメイルがあります。板垣氏と門田氏の観測は、06時35分にダンに送付しました。この日の朝は、ダルビシュの登板を見るために08時45分に自宅に戻りました。この日から数日間は、我が国では天候が悪く、観測は報告されませんでした。
それから2日が過ぎた4月12日18時34分に遊佐氏から「4月12日17時47分に16.1等」という観測が中央局に送られていました。それを見た坪井氏からは20時08分に「確認観測、ありがとうございました。美星天文台でスペクトル観測が行われ、II型の超新星とのことです」という返信が送られていました。そして、20時17分に遊佐氏から「先ほどようやくメイヒルのリモートで観測できました。ずっと気になっていたのですが、天気が悪かったり占有されていたりで、本日の追跡観測となりました。美星で分光観測されましたね。坪井さん。超新星と確認され、おめでとうございます」という返信が送られていました。
この超新星が公表されたのは、それから2週間後の4月26日13時43分到着のCBET 3092でのことです。その間、この2週間に別の新星状天体(複数)の発見報告がありました。超新星が公表されたCBET 3092には、超新星のスペクトル確認が国内外の天文台で行われ、4月10日の観測では、この超新星は極大光度数日後のII型の超新星と報告されていました。それを見た坪井氏からは、17時30分に「PSNの確認観測、および報告に関しまして皆様には本当にお世話になりました。本日、正式にSN 2012bvという名前がついたようです。発見から相当時間が経ってしまい少し心配していましたが、一応、ほっとしています。今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました」というメイルが関係者に送られていました。次の日の朝、4月27日07時20分に新天体発見情報No.187を発行し、坪井正紀氏の発見を報道各社に伝えました。なお、坪井氏の超新星発見は、これで7個目となります。5月2日になって、野口氏から「新天体発見情報No.187をありがとうございました。お礼が遅くなり申し訳ありません。私のような観測初心者でも、名前が掲載されると励みになります。位置や光度の値、画像処理等まだまだ他の方々の足元にも及びませんが、精度の良い報告ができるよう勉強したいと思います」というメイルが届いていました。この日、この20年間部屋に座っていた“ねずみくん”と“くまくん”を何とかぎゅうぎゅうづめで車に押し込み、洗濯屋に運びました。彼らが我が家に来てから初めての洗濯です。仕上がりは5月9日になるとのことでした。
いて座の新星状天体 Possible Nova in Sgr 2012
5月9日00時15分に群馬県嬬恋村の小嶋正氏からメイルが届きます。そこには「2012年4月24日深夜01時半頃にキヤノンEOS 40D デジタルカメラ+150mm f/2.8レンズを使用して、いて座を撮影した捜索画像上に12.5等の星が出現していることを見つけました。過去の捜索画像を調べると、この星は、約1年前からの捜索画像上に10等級の星として写っていることが判明しました。昨年の観測と比較して、この星は変光(減光)しており、2011年には11等より明るいときもありました。今年の直近の観測では12.5等級です。この位置にAAVSOサイトでは変光星はありませんが、2MASSカタログでは出現位置に明るい天体があり、タイプMの変光星かもしれません。また、SIMBADカタログでは、IRAS18079-2718が25"ほど離れた位置にあります。しかし、ASAS3のサイトではこの星は観測されていないようで、不思議に思っています。近くのIRAS18079-2716はライトカーブが表示されます。この明るさからして、ASAS3で過去にとらえられていないのは気になります。なお、捜索画像上に写っていた各夜の光度は、2011年4月13日に10.9等、29日に10.7等、7月5日に10.6等、9月23日に11.2等、10月16日に10.8等、29日に11.3等、2012年2月28日と4月24日に12.5等でした」という報告がありました。
小嶋氏の画像から位置を測定しようとしましたが、どれがその星かわかりません。そこで06時25分に氏に『報告の星の位置を測定したいので、明るく写っている時期と最近の画像をください。矢印をつけてください。TOCPに入れますか……』というメイルを送りました。すると、07時01分に「おはようございます。最近の画像(2012年4月24日)と明るいときの画像(2011年4月29日)の画像をお送りします。画角は1.1゚×1.1゚です。これでよろしいでしょうか。2MASSカタログでは、そこには天体が存在するようで、TOCPに入れる必要はないかと思います。さらに調査は希望します。お手数ですが、よろしくお願いいたします」というメイルが届きます。しかし、まだこの星がどこにあるかわかりません。そこで07時16分に『星が多く同定できません。上が北ですか』というメイルを送りました。すると小嶋氏からは、07時36分と07時44分に「うまく説明できませんので、トリミングなしの画像をお送りします。矢印↑です。メシエ天体M8が目印になると思います。画角は8.7゚×5.8゚です。M28とλ Sgrを入れました」という説明と画像が届きます。そこでようやく星の同定を行え、その位置を測定できました。光度は、最近の画像では13.2等、1年前には10.7等、極限等級は14等級でした。小嶋氏の画像は、150mmレンズにしてはひじょうによく写っていました。嬬恋村の観測条件がひじょうに良いことが推察されます。そして、氏の発見を『いて座の新変光星(PNV)』として、ダンに送付しました。5月9日08時19分のことです。報告を見た小嶋氏からは08時33分に「CBATへの報告、ありがとうございました」というメイルが届きます。
その日(5月9日)の夕刻、19時24分には、大崎の遊佐徹氏より「小嶋さんの天体についての情報をありがとうございます。メイヒルは雨で、しばらく天候の回復は難しい感じです。明日、晴れましたら撮影してみます。なお、CBATのTOCPの投稿ページの機能が停止しているようです。このことについて、ダンにはメイルしています」。そして、22時11分には、山形の板垣公一氏から「こんばんは。PNVの楽しい情報をありがとうございます。金田さんと21cm望遠鏡による彗星捜索画像をお互いに調べてみました。この星は、最近の複数の画像に確実に写っていました。測定の結果、私はこの星は『ミラ型の変光星』と判断しました。でも金田さんの調査、そして考えは『並のミラ型ではないかもしれない』とのことです。小嶋さん、楽しい星だといいですね」というメイルとともに、札幌の金田宏氏が板垣氏の捜索画像を調べた結果が送られてきます。そこには、この星は「2008年6月10日の捜索画像上には見られないこと」「2011年2月19日には11.0等、2012年4月14日には12.3等で写っていること」また、「USNO-B1星表にある15等級の星がこの星とほとんど同じ位置にあること」が書かれてありました。これらの調査は5月10日07時16分にダンに伝えました。また、その夜21時39分には小嶋氏から「このPNVにつきまして、当初TOCP入れる必要がない旨の返答をいたしましたが、その後の調査で、特異な変光星の可能性があることがわかりました。板垣さんに相談しましたところ『TOCPをおおいに活用すべきだ』とのアドバイスもいただきました。つきましては、TOCPへの掲載をお願いします」との連絡が届きます。
さらに小嶋氏からは、それから2日後の5月13日10時29分に「美星の藤井さんの観測では、星には強いHα輝線が見受けられるとのことです。新星らしいとのことで、ひじょうに驚いています。皆さんに親切に対応してくださった結果だと思います。心から感謝申し上げます。少し早いかもしれませんが、お礼をさせていただきます。今後の観測データも楽しみです。これからもよろしくお願いいたします」というメイルが届きます。その夜、20時53分には、小嶋氏より「もう少し調べましたら、2011年11月15日に11.5等で写っていました」という報告が届きます。同じ夜、21時16分には、遊佐氏から「TOCPが正常化しました。小嶋さんのPNVは、分光確認もされたようで安心しております。私もなんとか時間をつくってメイヒルで撮影しようと思っていましたが、メイヒルはずっと天候が悪く、雨が続いていてルーフが閉まったままです。こういう場合、オーストラリアを使いたいところですが、ムルークからサイディング・スプリングへの機器の引っ越しが完了しておらず、あてになりません。さらに、スペインの望遠鏡は地平高度35゚以下には向かず、低空の天体の観測が不可能です。明るい新天体の場合、多色測光をぜひ行いたいと思っていますが、まだまだ準備と技量が整っていません。今年度中には勉強していきたいと思います。今、日食に向けて観測会の準備に追われております。こちらの食分は0.92ですが、洲本は金環食帯に入っていますね。晴天を祈るばかりです……」という連絡がありました。なお、板垣氏がその日(5月14日)の明け方02時09分に行った観測では、この星の光度は12.3等と観測されました。
それから約2週間が過ぎた6月1日22時58分に小嶋氏から「今だに公表されませんが、別の過去画像を調査したところ、いくつかに写っていることがわかりました。その光度は、2009年10月19日には写っていない。2010年8月7日に12.2等、9月4日に11.3等、10月10日に11.0等、11月3日に10.3等、11月10日に10.3等でした。2010年11月頃は明るかったようです」という連絡が届きます。
そして、それからさらに2週間が過ぎた6月14日14時11分到着のCBET 3140で、この星は新星状天体として公表されました。そこには「2012年5月に美星で行われたスペクトル確認では、爆発後長い期間が経過した新星らしい」とのことが報告されていました。そこで6月15日08時16分に新天体発見情報No.188を発行し、この発見を報道各社に送付しました。その夜、21時00分に小嶋氏から「新天体発見情報をありがとうございます。抜けられない私用があり、返信が遅くなりました。中々公表されず、忘れ去られるのでは、という不安もありました。まだ解明の余地がある天体かもしれず、それは楽しみでもあります。今回お世話になりました皆様に、心よりお礼を申し上げます」。また、6月16日09時08分に金田氏から「いつもお世話になります。新天体発見情報No.188を送っていただき、ありがとうございました。小嶋さんのこのPNVは、専門家でも特定に難儀しているようで、お蔵入りするのでは……と心配していました。しかし今回、PossibleではありますがCBETで公表され、本当に良かったと思います。それにしても、小嶋さんはよくこの星を検出したものと思います。では、今後もご指導のほどをよろしくお願い致します」というメイルも届いていました。