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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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091(2012年6〜7月)

いて座新星2012 No.3

2012年6月20日に大崎の遊佐徹氏から「板垣さん。同夜に2個の超新星発見(SN 2012cuとSN 2012cw)の偉業達成、おめでとうございます。記録を遡ってみたら、2夜連続で発見されたことが2005年2月5日に2005ab、6日に2005ad、そして2006年11月24日に2006ov、25日2006qpと2度ありましたが、今回の例も驚異的ですね。すでにアストロアーツの天文ニュースのトップに紹介されています。本当に素晴らしいご活躍に敬服です。このペースでどんどん発見数を伸ばしていかれることをお祈りしています」というお祝いの書かれたメイルが届きます。最近ここに板垣氏の話題が登場しないのは寂しいことですが、氏は成長して独立し、2011年末に私から離れていきました。

それから1週間後の6月26日朝は、快晴でした。すっきりとした晴天で、気分が良かったせいか、07時50分に山形の板垣公一氏に電話を入れてお祝いを言いました。氏によると「山形も久しぶりの快晴で、一晩中捜索できた」とのことです。でも「何も収穫がなかった」とのことでした。氏は「発見は、曇り空の日が多いですね」と話して会話を終えました。その日の深夜(6月27日)00時44分に水戸の櫻井幸夫氏より携帯に電話があります。氏は「いて座に新星らしき天体を見つけました。これから報告を送ります」と話して、電話が切られます。氏の報告は01時01分に届きました。そこには「2012年6月26日21時57分にフジ・デジタルカメラ+ニコン180mmレンズを使用して、いて座を20秒露光で撮影した4枚の捜索画像上に9.9等の新星状天体(PN)を発見しました。この星は、6月25日23時26分に撮影した4枚の画像上には写っていません」と書かれてありました。

報告を受けるとすぐ、中央局の未確認天体の確認ページ(TOCP)を見ました。すると櫻井氏の発見位置の星は、早々とすでに報告されていました。発見者を見ると板垣氏です。氏は、同夜22時11分に21cm反射望遠鏡+CCDで撮影した捜索画像上にこの新星を発見していました。氏の発見光度は10.2等でした。発見画像の撮影時刻は櫻井氏の方が14分ほど早いのですが、板垣氏の捜索はプログラムによる自動サーベイです。そのため、櫻井氏より早くこの星を発見したのでしょう。TOCPに発見が報告されていることは、すぐ櫻井氏に伝えました。そして『出現位置を測定したいので、発見画像を送ってくれる』ように頼みました。そして、まず最初に櫻井氏の発見をダン(グリーン)に報告しておきました。01時53分のことです。その同時刻に氏の発見画像が届きます。

櫻井氏の発見報告を読んだ板垣氏から02時48分に「まだ外は暗いけど、おはようございます。先ほど櫻井さんから電話をいただきました。60cm反射でのPNの確認画像です」と画像が送られてきました。そして板垣氏からは、05時06分と05時17分と05時21分に「TOCP上の氏の発見に情報を追加してくれ」とメイルがありました。『独り立ちしたのだから、自分でやれば良いのに……』と思いながら、それらの追加情報をTOCP上に入れました。櫻井氏の発見位置の測定が終了し、ダンにこれを伝えたのは06時32分のことです。氏の画像では、発見光度は9.8等±0.3等と測光されました。2人の発見光度はよくあっていたことになります。板垣氏からは、07時32分に「TOCPに入れていただきありがとうございます。1時間くらい寝られたので良かったです。まもなく仙台に行きます」というメイルが届きます。

6月27日の夜、22時38分に櫻井氏から「今朝ほどはありがとうございました。メイルを送った時点では気づきませんでしたが、その後、再度TOCPを見て発見者が板垣さんだったことを知りびっくりしました。気象衛星の画像では九州も静岡も雲がかかっていたので、いつもの3人でないことはわかっていたのですが、まさか板垣さんとは思いませんでした。発見から報告までのスピード、そして、みずからの確認観測、さらにその直後にアンドロメダ銀河(M31)にも新星発見と、やはり常人とは思えません。今回も中野さんのおかげで独立発見が認められそうです。複数コマに写っていたことと、前日の画像になかったことで、今回は間違いないと確信していました。お世話になり、ありがとうございました」というメイルが届きます。次の夜(6月28日)21時14分には、大崎の遊佐徹氏から「板垣さんと櫻井さん発見のPNを、昨日、米国メイヒル近郊にある25cm望遠鏡で撮影しました。多色測光を行ってみました。筑波の清田さんとほぼ同じ値が得られているようです。昨日の時点で色指数はB−V=+1.5ですので、アルデバランなみに赤く輝いているようです。せっかくですのでステライメージで三色合成してみました。やはり赤いですね」というメイルと「6月27日15時03分には、PNの光度は9.7等であった」ことが報告されます。

それから2日半が過ぎた6月30日に02時09分に、再び櫻井氏から「引き続き、6月29日22時01分にさそり座を撮影した画像から新星らしき天体を見つけました。光度は10.3等です。この星は、20秒露光の4枚の捜索画像に写っていますが、6月25日23時30分と26日22時00分に撮影した4枚の画像(極限等級12等級)では確認できません。撮影機材は同じです。変光星、小惑星については該当するものはありません。画像は処理中ですので、とりあえず発見報告のみ先に送ります」という発見報告があります。そして02時42分には「遅くなりましたが画像を送ります。写野は約50'×75'です」というメイルとともに発見画像が届きます。画像を確認して、02時53分にこの発見をダンに報告しました。すると、即座に板垣氏から「この星は、CBET 3136に公表されたさそり座の新星です」という連絡が届き、03時11分に櫻井氏の発見を取り消しました。その日の朝、09時12分に櫻井氏から「ここ数日睡眠不足が続いており、判断力がかなり鈍っていたとはいえ、既知の新星を報告してしまうなどもってのほか。お恥ずかしい限りです。申し訳ありませんでした」というメイルが届きます。『櫻井さん。実在する本物の新星の発見ですので、そんなに気にする必要はありません』。

さて、いて座に出現の新星は、その発見後、世界の多くの観測者によって8等〜9等級で確認されました。また、スペクトル確認も複数の地点で行われ、6月30日09時19分に到着のCBET 3156で公表されました。その2日後の7月2日07時46分に報道各社に新天体発見情報No.189を送り、2人の発見を伝えました。

いて座に出現した明るい新星2012 No.4

7月7日夜には、朝に降っていた雨がようやく上がっていました。19時40分に自宅を出て南淡路まで買い物に出かけ、ガソリンを入れて吉野屋で牛丼を食べて、さらに洲本のイオンにも寄って、21時55分にオフィスに出向きました。メイルを確かめ、食料品を冷蔵庫に入れるため自宅に戻りました。すると、23時18分に札幌の金田宏氏から「7月7日のサーベイ画像から新星状天体(PN)を発見しました。確認依頼をお願いしたいと思います」から始まる新星の発見報告が届きます。そこには「7月7日にいて座をニコン・デジタルカメラ+105mm f/2.5レンズで20時58分から3秒露光で撮影した4枚の画像上に、7.8等の新星状天体を発見しました。出現は、その直後に撮影した8枚の画像からも確認しました。移動はありません。6月28日と29日に撮影した過去の極限等級が9等級の捜索画像上には、出現していません。また、AAVSO検索サイトとSIMBAD検索サイトには該当天体はありません。小惑星と彗星も出現位置近くには見られません。なお、出現位置の測定精度は±15"、光度は±0.5等くらいです」という発見報告がありました。そして、氏のメイルには「ただ今TOCPを確認しました。すでに西山・椛島さんの発見報告が掲載されていました。独立発見ということでお願いしたいと思います」という連絡がつけられていました。

発見報告を送ろうとしたそのとき、掛川市宮脇の西村栄男氏から「新星を発見した」という電話が入ります。位置を聞くと金田氏が発見した新星と同じもののようです。氏はあとから発見報告を送るということですので、とりあえず金田氏の発見を23時44分にダンに送付しました。その西村氏の発見報告が23時51分に届きます。そこには「7月7日にキヤノン・デジタルカメラ+200mm f/3.2レンズで20時53分から15秒露光でいて座を撮影した極限等級が14.7等の4枚の捜索画像上に、8.9等の新星状天体を発見しました。この星は6月20日に撮影した捜索画像上には、まだ出現していません」と報告されていました。

その夜の23時58分には、金田氏よりその発見の概要が報告されます。氏のメイルは「いて座に発見したPNの発見画像(モニター画面)をお送りします」から始まっていました。そして「今回は、CCDFでの自動サーベイが終わり、11個の候補が出ていましたが、その3つ目が新星でした。像はしっかりしており、小惑星ではなかったので、一瞬で新星と確信しました。本当に久しぶりの感覚です。このエリアは他にも2組撮っており、都合3組の観測(12枚の画像)があり、すべてに明瞭に写っていました。すべてのチェッキングが終わり最後にTOCPを見たら、西山・椛島さんの発見が出ていました。私の観測よりも、45秒早い発見です。時刻の上からも、私の発見は2番目(以降)となりますが、一応独立発見にはなるかと思い、報告した次第です」と紹介されていました。添付されたモニター画面の写真を見ると、自動サーベイの様子がよくわかります。『私もこのようなソフトを持っておれば、いっぱい新星が見つけられるのに……』と思いながらその写真を眺めました。そして、西村氏の発見をダンに伝えたのは7月8日00時04分のことです。

その8分後の00時13分には、別の独立発見が掛川市上屋敷の金子静夫氏から送られてきます。氏の報告には「7月7日21時29分にキヤノン・デジタルカメラ+200mm f/2.8レンズでいて座を10秒露光で撮影した2枚の画像上に、7.7等の新星状天体を見つけました。位置、光度とも金田さんのソフトによる計測です」とありました。『新星の光度が7等級ともなるとこんなにも発見が重なるものか。いったい何人の人たちが新星捜索を行っているのだろうか……』と思いながら、00時23分に氏の発見をダンに伝えました。そのあと西村氏と金子氏から、それぞれ00時38分と00時43分に発見画像が届きます。

その日(7月8日)の朝、07時47分になって、別件でちょっと用のあった櫻井幸夫氏に『昨夜、いて座の新星の発見が4名の方からありました。櫻井さんの好きないて座でしたので、櫻井さんもか……とも思ったのですが、届きませんでしたね。以下、皆さんに送ったメイルです。満月過ぎの夜の捜索、ご苦労様でした。時刻的には、西村:20時53分、西山:20時57分、金田:20時58分、金子:21時29分の発見順ですが、どうしてもTOCP報告一番がCircularのトップになってしまいますね。しかし、多分、もっと沢山の人がこの領域を写しているのでしょうか……。なんとも、すさまじいことです』という連絡を送っておきました。この星は同夜の内に国内でスペクトル観測が行われ、新星であることが確定し、08時19分到着のCBET 3166でこの新星の発見が公表されました。

金子氏より09時32分に「昨夜は色々と対応していただき、ありがとうございました。報告された発見時刻では、私だけ撮影時刻が皆さんより遅い上、中野さんへの報告も遅くなってしまいました。それにもかかわらず独立発見として追加報告していただき、大変に恐縮しております。TOCPの第一報掲載時刻がわかりませんので、私の撮影時刻を見て異論が出るのではないか、少々複雑な気持ちです。もし不都合があるようでしたら、発見の文字は取り消していただいてかまいません。今回、久しぶりの撮影と発見で、手間取ったりためらっているうちに、報告が大変遅くなってしまいました。今後は、もっと速やかに対応するよう心がけますので、よろしくご指導のほどお願い致します」というメイルが届きます。そこで氏にはCBET 3166を送付しておきました。

同じ日(7月8日)10時22分には、大崎の遊佐徹氏より「米国メイヒル近郊にある25cm望遠鏡で行った7月8日15時57分の観測では光度が7.9等であった」ことが報告されます。櫻井氏からは10時55分に「いつも本当にお世話になっております。先日はご迷惑をおかけいたしました。昨夜は、当地は雨のため捜索はできませんでした。七夕新星の発見に加われなかったのは残念ですが、天候だけはどうしようもありません。天候の回復を待って、また頑張りたいと思います」。そして22時45分には、西村氏より「昨夜は大変お世話になりましたこと、本当にありがとうございました。今日、金田さんと電話でお話をしましたが、昨夜、中野さんへの報告は金田さんの電話の直後に私の電話だったようですね。新星が明るかったことと、梅雨で捜索ができなかった新星ハンターが晴れ間を手ぐすねを引いて待っていたから、多くの方の発見になったと思います。発見から新星への確定も素晴らしく速いですね。私も発見の仲間入りをさせていただいたことに、今回も中野さんのお力だと感謝しております。60歳を過ぎても発見時の感動を味わえるのも、中野さんが日本の発見環境をお作りいただいているからだといつも思っています。中野さんには私から何もできませんが、捜索だけは続けさせていただきます。16個目の新星も中野さんのお陰でできました。ありがとうございました」というメイルが届きます。

そして、7月9日朝06時10分には、板垣氏より「おはようございます。皆さん、やりますね。その時、私は温泉につかりお酒でした。山形は雨だったので安心して……」というメイルが届きます。この日の朝は『もう、秋か……』と思うほどの快晴の空が広がっていました。その空を眺めながら、07時32分に新天体発見情報No.190を発行し、報道各社にこの発見を伝えました。それを見た金田氏から11時16分に「このたびのいて座新星No.4の発見では本当にお世話になりました。また、新天体発見情報No.190もいただきました。本当にありがとうございました。私は2007年8月に新星のサーベイを開始しましたが、その間に3個の発見に恵まれました。2年に1個の発見確率は、効率が良いのか悪いのかはわかりませんが、札幌市街地での観測であること、3秒露出の固定撮影であることを考えると納得の範囲内かと思います。ちなみに、約6年間で、365時間、24万枚の画像、6.3万天域の撮影を行っています。今回の発見でも、中野さんには本当にお世話になりました。ありがとうございました。また、沢山の方々のご支援やご厚意があったればこそと、感謝致しております。これからもどうぞご指導のほどをよろしくお願い申し上げます」というメイルが届いていました。

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